第7話
中学も卒業が近付いてくると、綾香様の進学先が知りたい。一緒の学校に行きたいと、強く思うようになっていたんだよ。
でも、どうしても訊けなかった。拒否されたらと思うと怖くて、緊張して、踏み込めなかったんだ。
結果的に私は、親の言うまま惰性で高校を受験した。綾香様がいないとわかる場所に、私の希望も何もない。どうでも良かった。
私にとって綾香様は私の全てになっていた。
綾香様から貰えるものなら、例えゴミでも愛おしい。
綾香様に友達だって言われた時、言葉に言い表せない程嬉しかったのよ。
綾香様が私を呼ぶ声、何度も何度も頭の中に繰り返し聞こえる。
綾香様の為になら……
ある時、綾香様と一緒にいて……初めて現実で未来を見たんだよ。
夢の中ではなく現実で、唐突に見えたもの。
綾香様は電車事故に巻き込まれて死ぬ。
今から5年以内に。
そんなものが感じとれた私は、もう気が動転して綾香様に伝えようとしたりとにかく未来を変えようと思ったのよ。
そうして、また現実の中で未来を見た。
今度は成人式の日に、私は他の人から綾香様が病死した事を聞かされるのよ。
『ああ、もう……どうして。どうすれば、綾香様は助かる?』
『お願いします。綾香様を助けて下さい。私は何でもする。私は何を捧げても良いから、綾香様を助けて下さい』
本気でそう願い、祈った。今度はいると信じる神様、もしくは神というような何かに、そう願った。
それから直ぐに、また別の未来を見た。
成人式の日に、私は綾香様に会える。そうして聞くんだ、綾香様が今やっている部活のプロのスポーツ選手になっていることを。
不安はあったけれど、心の重りがとれたような感覚だった。
そして、一つ自分の未来が消えた気がした。
ずっと前、私は自分がお婆さんになっている未来を見た。
けど、綾香様の生存した未来を見た後、お婆さんになっている自分が見えなくなった。
だから気付く。
『ああ、私は……自分の寿命を支払ったのか。綾香様を助ける代償として』
運命を変える代償に寿命の半分。綾香様の為にならそれくらいは支払える。後悔はしない。したくないと、その時に強く思った。
中学を卒業後、成人式までの5年の間に……確かに大規模な電車事故は起こった。
不安だった。確かめるのが怖かった。本当に綾香様が巻き込まれていやしないか。
ずっとずっと、綾香様の無事と幸せを願い、祈り続ける5年間だった。
成人式の日。
私は、綾香様に会った。
あの時見た未来のままに、綾香様はプロのスポーツ選手になっていたと聞いて、耐え切れずに泣いた。
ずっと会いたかった。ずっと不安だった。ずっと愛していた。
そして、これが最後。
もう、私と綾香様は交わらない。
会えない、話せない。触れることもない。
別れが惜しくても、別れはくる。
成人式の日、貴女に会うことだけ目標に生きていたから。
それから私は、綾香様を想いながら惰性で生きていく。
綾香様はいずれ、恋人をつくるんだろう。
そして、結婚して、子供を作るんだろう。
貴女を世界で一番愛したのは私だと。
そうはっきり言い切れるのに、私以外の人が貴女の傍にいく。
嫉妬でおかしくなりそうだ。けれど……
『貴女が幸せであることが、私の一番の幸せだ』
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