第6話
中学3年の春。
卒業アルバムに載せる写真を撮るのに、綾香様と私と他数人で桜の木の下にいた時、綾香様に良いものをプレゼントしたくて、風に、天候に願ったことがある。
天気予報の降水確率は0%だったんだけれど、晴れ間に小雨が降ったのよ。そこに太陽の光が当たって虹が出来たの。緩く風が吹いて桜の花びらが宙を舞っていて……絶景だと思った。
そしてそれを見る綾香様の嬉しそうな横顔を、心に焼き付けながら。風や天候に何かを願うのは最後にしようと思った。
いずれなくなるかもしれない能力なら、出来なくなった時苦しくなるだけだろうからと、それなら封印したまま。もう出来ないだろうなと、諦めた方が心が痛まない。だから天候の変化を願ったのはこれが最後だ。何か悪いことが起きそうで怖かったというのもあるしね。
土曜日が休日になった年、私は本当に嫌だった。貴重な綾香様に会う日が減ることが嫌で嫌で、学校に行きたくて仕方なかった。
綾香様の前でもなんとか表面上では平静を装えるくらいにはなってきていた。私が携帯電話を持った時、綾香様と今後も連絡が取りたくて一世一代っていう勇気を振り絞って、携帯のアドレスとか訊いてみたけれど。
「持ってないよ」って言われた時は凄く落ち込んだ。まだ子供で持ってる人の方が少数だったんだよね。
それから綾香様の夢を沢山見た。夢の中でもドキドキした。一度だけこれが夢だと気づいた事があって、その時現実と同じくらい緊張しながら、綾香様に「貴女が好きです」って伝えたんだ。
夢だと分かって自分で夢を少し操作しようとしたんだよね。そうしたら、魔女か死神のような恐ろしい婆さんが出てきて凄く怖い思いをしたのを覚えてる。その先が曖昧だけれどその婆さんに、夢を操作しようとすると恐ろしい目にあわせるぞ、というような脅迫を受けたような気がする。
以来、夢のコントロールは断念したんだ。
私の夢は予知夢だけじゃない。そう気付いてた。誰かの精神に入り込んで、その人と同じ夢を見たり、その人の過去を見たり、その人の未来を見たりしていたんだ。なぜそんな事が分かるかといえば、見たから、聞いたから。
少し変わった事故で死んだ人のニュースを見た。でも、それは私が中に入った人だった。事故が起こる前の出来ごとや、その最中の光景、その時その人の思っていたこと。ニュースを見た時思い出したんだ。
また、別の人の夢を見た。そこは夢の中だとはっきりわかるものだった。ネットの中でその人が書いたと思う文章を見つけた。私がその人の中で体験した事に酷似している。
そして、ある人の幼少期の夢を見た。その人が成長してから幼少期の話を聞いていて、私がその人の中で聞いていたその人の思った事を言ったら、当たっていたらしい。
夢は、自分のことにしろ、他人のことにしろ、現在、未来、過去、夢。あるいはどれでもないもの。きっとどこにでも繋がる可能性がある。少なくとも私はそうだった。だからこそ、夢をコントロールしようとした私を何者かは脅しに来たんだろう。
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