第4話梅の庭
薄緑の鳥が集まりだしたのは、雪解けて、梅の木に花が咲き始めていたときであった。
私が、あの鳥の名前を呼ぶことをしなくなったのは、五年も前のことだ。
妻は、花びらが散り、あの緑の葉が咲き始め小さな梅の蕾が所々に作られ、少し近くで見たくなった妻は、脚立を出して覗き混んでいた。
だが、悲劇が起きたのはその後であった。
カメラを取り出し、その蕾を写真に撮ったときだ。
シャッターの音に驚いたのか、梅の木の中から鳥が飛び出し、妻の顔にぶつかりバランスを崩した妻は、地面に倒れてしまった。
すぐに病院に連れていったが、頭の打ち所が悪く亡くなってしまった。
まさか、こんな簡単に大事な人が死ぬとは、思いもしなかったが、私はずっと梅の木を眺めていた。大きくなり始めている梅の実をただ眺めていた。
妻が死んで、2ヶ月でたった。大きい梅の実を干して、梅干しにした。
とても、酸っぱく造り上げた梅干しを私は食べた。妻の遺影の前に梅干しをお供えすると、私は拝んだ。
その次の春、梅の木の所にあの鳥が現れ、声出した。私は、小さな小石を梅の木にぶつけて、鳥を追い払ってやった。
なぜかスッキリした。
気持ちが落ち着いたのはやはり、あの鳥を憎く思っていたからである。
そこから、次の年もまた次の年も鳥を追い払っていた。孫が帰って来たときも、鳥を追い払った。すると、孫は、私を怖く感じたのか、次の年は、来ることはなかった。
だが、今年の春は違った。鳥はこなかった。いや、梅の木がなかった。
私が秋先から入院していたのだが、冬の間に、息子夫婦が、梅の木を撤去していた。いや、移しかえていたというのがただしいのだが、五年も嫌っていた鳥が私の前から消えた。梅の木に悲しみを感じてはいたが、なぜだろうか、あれほど憎く感じていた鳥がいないと心に思ってしまう。遠くから、なり響く
ホーホケキョの声が聞こえたことに、私も物寂しさを感じてならない。
完
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