第15話
葉風さんが金田くんの連絡先を手に入れて数日が経った。
「明日、告白してみようと思います」
「へぇ、それはまた思い切ったな」
ってきりもう何ヶ月かはグダグダとするのかと思ったが、そう言う葉風さんの目には覚悟の光が宿っていた。
正直俺には眩しすぎるくらいだ。
「まあ告白するのはいいけど、今その彼とはどんな感じの関係なんだ?」
「この間の休日は2人で遊びに行きました」
確かにこの間の休日はどこかに出かけていたみたいだけど、そうかデートだったか。
「言ってくれればアドバイスくらいしたのに」
「はっはっ、高宮さんにデートのなにが分かるんですか?」
「おい」
失礼なやつだ。
「冗談ですよ。高宮さんにばかり頼ってはいられないと一念発起したんです」
「それは感心なことだけど、結果は上手くいったのか?」
「まさか、私にとっては初デートですよ?失敗ばかりですよ。でも金田くんは私を怒ったりせずにむしろ______」
「あー、惚気はいいから。それでこの勢いで勝負をかけにいくと」
じっと睨まれた。
「…最近では普通に会話もできるようになりましたし、話している感じでは脈はあると思うんです」
「それは良かったじゃないか。でも明日っていうのは流石に急じゃないか?」
「引き延ばせば引き延ばした分だけ覚悟が薄れていっちゃいそうなので」
葉風さんの言いたいことはよく分かる。
『明日決める』と逃げ場をなくした方が覚悟も一層に固まるものだ。
でも、連絡先を交換してまともに話せるようになってまだ10日とそこそこだ。
決着を着けに行くには少し早い気もする。
が、葉風さんの目を見ていたらそんな不粋なことは言えなかった。
「まあ骨くらいは拾ってやろう」
「ちょっ!なんで振られる前提なんですか!?」
結局俺は葉風さんを応援することに決めた。
「そういえばデートの日なんですけど、妙な2人組に会ったんですよ」
「妙な2人組?ナンパでもされたか?」
葉風さんほどの美少女ならそういうことも有り得る話だ。
「いえいえ、女の子の2人組です」
「なるほど、詳しく聞こう」
キリッと表情を整えて言う。
百合展開はナマモノでも紙の中でも大好物である。
むしろ金田くんとか要らないからその路線でいって欲しいね。
「…なんでちょっと食い気味なんですか?」
俺からなにかを感じ取ったのか不審者を見るような目を俺に向ける葉風さん。
「多分友達同士なんだと思うんですけど、金髪の女の子と黒髪の女の子の2人組なんですよ」
…ん?
少しだけ心当たりがある。
この間の休日といったら、確かどうやって調べたのか梓と璃子がこの店にやって来た日のことだ。
そして同じ日に葉風さんが見たという金髪の女の子と黒髪の女の子の2人組。
……。
激しく心当たりがあった。
「で、なにが妙だったんだ?」
動揺を表に出さないように注意しつつ尋ねる。
「高宮さんなに動揺してるんですか?」
「し、してない」
「いえ、それだけ顔に出しておいてそれは無理があるかと」
「!?」
マジかよ。
みんなから顔に出ると言われて意識していたんだが、どうやらまだ顔に出ているようだ。
「やっぱりあの2人高宮さんの関係者なんですか?」
「…多分」
でもまだ違う可能性も1%くらいはあるはずだ。
そこに願うしかない。
「それでなにが妙だったんだ?」
「金髪の方の子なんですけど、最後に『お兄ちゃんにベタベタしないでください』って言ってたんですけど、どうにもその『お兄ちゃん』に心当たりがなくて、っていうかどうして私がその『お兄ちゃん』と関わってるのが分かるのか…と。妙じゃないですか?」
さようなら1%の可能性。
葉風さんが会ったと言う2人組は確実に梓と璃子だ。
それにしてもホントにどうして俺と葉風さんに繋がりがあるって分かったんだ?
お兄ちゃんはたまに妹が怖い。
「確かに妙にではあるな。俺、葉風さんのことあの2人には全く話してないんだけど」
「その言い方だとやっぱり知り合いなんですね」
「あぁ、…2人とも俺の妹たちだ」
恥ずかしながら…。
「え?2人とも?…え!?」
2度驚かれた。
まあ無理もない、俺と梓は実の兄妹だからともかく、璃子と俺とじゃ血が繋がっていないから似ても似つかない。
「あ、でも確かに2人とも目元とかそっくりでしたね」
「思ってもない事を言うんじゃない。俺と璃子___金髪の方は血は繋がってないんがから似てるわけがないだろ」
「…義理の妹ってリアルに存在するんですね。作品の都合上の架空の存在だと思ってました」
「実も妹じゃ結婚もできないしドラマにならないからな」
それでは物語にならない。
だからってもう少し言い方を選んで欲しいものだ。
「話を戻すけど、一応2人には後でちゃんと説明しておくよ。俺と葉風さんの間には特別な事は一切ないって」
「そうですね…お願いします」
なぜか少し残念そうに言う葉風さんだったが、俺の直感がそれ以上突っ込んではいけないと警告を鳴らしたため気にはしなかった。
「それじゃあ勉強を始めようか」
「はい、よろしくお願いします」
そして俺たちはいつものように受験勉強に集中するのだった。
そんな話を葉風さんとした翌日。
「もうすぐ給料日だろ?高宮はどんな感じだ?」
俺がバイトを始めて1ヶ月と数日。
確かにもうすぐ俺も給料日ではあるが、どこでそれを知ったのか辻野が朝から俺の席へやってきた。
「どうだったって、まあ毎日入ってるそれなりにはあると思うけど」
「それを聞いて安心したぜ。それならお互い真代に殺されずに済むな」
「あぁ〜、そういえばそんなことも言ってたな」
今から半月ほど前、旅行先を熱海に決めた日に真代が俺と辻野を脅した件を思い出す。
そういえば真代との旅行ってこれが初めてだった気がする。
まさかこんな形で真代と旅行に行くことになるとは思わなかった。
「しかし真代のあれは完全に詐欺だよな。普段の振る舞いは『品行方正』って感じなのに本性は完全に悪魔じゃねぇか」
「それ絶対本人に言うなよ?殺されるより酷い目を見るぞ」
思い出すだけでも恐ろしい。
今思い出しても死にたくなる。
「一体なにがあったんだ…」
「聞くな…頼むから」
あんなの人に知られたら俺はもう生きていけない。
一生胸に秘めて墓場まで持っていくつもりだ。
「そういや辻野、最近は俺たちにばっかり構ってるみたいだけど他の奴とは絡まなくていいのか?」
「お前と同じにするな。俺はちゃんとクラスメイトたちとも上手くやってるんだよ。それより高宮の方はどうなんだ?そろそろ俺ら以外にダチは増えたのか?」
「もちろん。そいつ
「ア○パンマンかよ」
一発でバレた。
「まあ冗談は置いといて、別に俺は友達100人欲しいとかそういうわけじゃないんだよ。ただ気の合う奴が数人いればそれでいいんだ」
それさえ一生の付き合いに至らなかったとしても、俺はそれで十分だ。
「ま、気持ちは分かるけどな。無理に合わせにゃらなんのなら最初から関わり合わないことがお互いのためだからな」
でも、と辻野は続ける。
「ダチは多くて悪い事はない。高宮ももう少し外に目を向けてみたらどうだ?案外気の合う奴が近くにいるかもしれねぇぜ?」
ニカッと眩しい笑顔を浮かべる辻野。
俺の貼り付けただけの愛想笑いとは全く別物だった。
「そうだな、善処する」
「その言い方は絶対善処しないやつだろ?」
「…あ、おはよう椎葉」
「高宮、無視とはいい度胸_____」
『だ』まで言う前に俺と辻野の間に椎葉が立ち塞がった。
「おはようございます、高宮さま。今日も良い天気ですわね」
朝の爽やかさをそのまま体現したかのような笑顔で椎葉さんが言う。
「おい…蓮乃」
「あら?正敏いらっしゃったのですか」
「居ただろ最初から!」
「ごめんあそばせ、どうにも器が小さ過ぎて見えていなかったようですわ」
「あん?器は関係ねぇだろ!っつうか器もデカイわ!」
「そこですぐに頭に血がのぼる男のなにが大きいと言うのですか?」
「っく…陰湿女」
辻野の聞こえるか聞こえないかのような呟きに椎葉さんの目がギンと光った。
「よ、よく聞こえませんでしたわ。もう一度言ってくださいませんか?」
「べっつに?なぁんにも言ってねぇよ?」
「いいえ、言いましたわ!わたくしのことを陰湿女と言いましたわ!」
「蓮乃の聞き間違いだろ。もしかして自分でもそう思っているからそう聞こえたんじゃないか?」
辻野、それはもう自分が言いましたって自白しているようなものだぞ?
いや、わざと…か。
それは椎葉も同じように捉えたのか整った眉を更に釣り上げる。
「それを言うのでしたら正敏だって先程からネチネチネチネチと…鳥黐男」
「んだとコラ!?」
「なんなんですの?」
(以下略)
「ふんっ」
「ぷいっ」
結局いつものお約束のままだった。
「ちょうど終わったみたいね」
2人の喧嘩が終わった辺りで真代が登校してくる。
最近ではここまでがいつもの流れと化していた。
「おはよう高宮くん。今日も冴えない顔付きね」
「あぁ、おはよう真代。顔付きは生れ付きだからどうしようもない」
「そうやって諦めている限り改善はできないわよ?少しは努力をしてみたら?」
「ほう、例えば?」
「整形手術」
「金がないな」
いくら高校生がバイトしたって整形手術を受けるほどの金は貯まらない。
まあ冗談なのは分かっているけど。
「そう、それじゃあ仕方ないわね。許してあげるわ」
「それはどうも」
しかし真代の口撃はこれでは終わらない。
なにぶん席が隣なだけに話す時間はたっぷりとあるのだ。
「誠意が足りないわ」
「…どうしろと?」
「土下座よ。DO・GE・ZA」
「…」
冗談…だよな?
目が本気っぽいけど、それを含めての冗談だよな?
うん、分かってる分かってる。
でもここはとりあえず乗っておこう。
「ありがとうございます」
「あなた土下座舐めてるの?」
「え…?」
机の上に両手を置いて頭を下げたのだが、どうにも真代は納得していない様子。
それどころかなんかキレてる。
「土下座っていうのは、100メートル向こうから走ってきて膝で滑りながら醜く頭を地面に擦り付けるのが鉄則でしょ?」
「…それって、土下座というよりスライディング土下座じゃね?」
「そうね」
満足気に言う真代。
要はここまでが真代のやりたかった一連の流れだったようだ。
「まあ15点ってところね」
低っ!?
いやいや、でももしかしたら20点満点中15点の可能性もまだある。
「ちなみに何点満点中?」
「2000点」
桁が2つ違った。
「最後のオチがショボかったわ。もう少し面白い反応はできなかったのかしら?」
「急に来られるこっちの身にもなってくれ」
特に真代の冗談はたまに本気なのか冗談なのか分からない時があるから困る。
「まあいいわ。今日のところはこれで許してあげる」
「そりゃどうも」
やっと終わった。
そう思った時だった。
「誠意が足りないわ」
「ループしてるっ!?」
「冗談よ」
そう言って悪戯っぽく真代が笑う。
真代に付き合うのはなかなかハードなのだと改めて思い知らされたのだった。
「高宮くん、青春してるかい?」
放課後、俺は生徒会長である恋海さんに呼び出されて生徒会室にやってきていた。
正直嫌な予感しかしなかったし、無視しようかとも思ったが、結局来てしまっているあたり葉風さんの言う通り俺はお人好しなのかもしれない。
「…それで橘先輩、今日は一体なんの用事ですか?」
「高宮くん、無視はやめて?お姉さんのガラスの心が傷ついちゃう」
「恋海さんの心はガラスはガラスでも強化ガラスでしょう」
「も、桃花ちゃぁ〜ん!高宮くんが!高宮くんがぁ!!」
嘘泣きをしながら橘先輩に縋り付く恋海さんだったを冷めた目で見ながら、俺は話を戻した。
「それでなんで呼ばれたのか教えてもらってもいいですか?」
「あぁ、私から説明しよう」
橘先輩は恋海さんを剥がしつつ答える。
「実は現在生徒会は深刻な人手不足なんだ」
「…はぁ?」
それがなにか?と目で訴える。
「率直に言おう、手伝って欲しい」
「ごめんなさい」
「なにっ!?」
断られるなんて全く想定していなかったかのような反応だ。
むしろどうして断られないと思ったのか不思議になる。
「最近放課後は忙しいので手伝う暇はないんですよ」
「あぁもしかして例の同好会か?」
「そんなところです」
嘘は言っていない。
同好会のための資金集めなのだから。
「結局どうなったんだ?」
「あ、それは私も気になってた」
ここで恋海さんが何事もなかったかのように会話に復活。
やっぱり恋海さんの心は強化ガラスで出来ているんだろう。
「一応仲間内だけで作りましたよ。といってもそこまで崇高な目的があるわけでもないですけど」
「ほぅ?どんな同好会になったんだ?」
「…」
言葉に詰まった。
『青春倶楽部』っていざ人前で口に出そうと思うと結構恥ずかしいというか、照れ臭い。というかもういっそ臭い。
しかも活動内容が、『一度しかない青春時代をより充実した日々にするための同好会』だなんて、少なくとも恋海さんの前でだけは絶対に言いたくない。
「ノーコメントで」
椎葉さんの真似をしてふいっと視線を逸らす。
「ほうほう、つまりは高宮くんたちは人には到底言うことのできない活動を毎夜毎夜しているわけだ」
「それは流石に生徒会としても介入せざるを得んな」
恋海さんの冗談めかしたような物言いに眼光を鋭くした橘先輩がこちらを睨む。
「そんなわけないでしょう。恋海さんも適当言わないでくれませんか?至って普通の同好会ですよ」
「いやぁ、そっちの方が面白いかなって思って」
ホントこの人一回痛い目にあった方がいいと思う。
「っていうかなんで生徒会の手が足りてないんですか?他の役員の人たちは?」
「他の仕事で手がいっぱいなの。ほら、ウチって夏休み明けたらすぐのように体育祭でしょ?その上体育祭が終わったら1ヶ月そこそこで文化祭が始まるしで、企画としては両方同時に進めないと間に合わないんだよね。
でも今年はちょっと色々とトラブってて全然準備が間に合ってないの。
それでとりあえずみんなには優先度の高い体育祭の準備をしてもらって、私たち2人は文化祭の下準備をしているわけ」
「って言ってもまだ夏休み期間が残ってるわけですし、そんなに急ぐ必要とかあるんですか?」
「大有りだよ。準備はやることが山のようにあるからね。高宮くんは知らないと思うけど、文化祭っていうのは夏休み前から始めってるんだよ」
「しかし、私たちだけでは限界もある。正直このままでは文化祭の日にまでに間に合わない可能性もある。まさに猫の手も借りたい状況だ」
「そこで高宮くんの凄腕を借りようかと___」
「別に普通以下の腕しかありませんから」
恋海さんの言葉を遮って妙な過大評価を否定する。
「人の言葉くらいは最後まで聞いて?」
「まあ恋海の冗談はともかくとして、暇な時だけでいいんだ。どうか力を貸して欲しい」
そう言って橘先輩が頭を下げる。
正直、『なんで俺なのか』とか『面倒だ』とか思うことは色々とある。
でも、橘先輩のような人からここまで真摯に頼まれてはそれを無下にしてしまうのも忍びない。
それに、もしここで俺が断って万が一にも文化祭までに準備が間に合わなかったとしたら、俺はきっと後悔するだろう。
「分かりました、暇な時だけでいいのならその話を受けましょう」
「ホントに!?高宮くんならそう言ってくれるってお姉さん信じてたよ!」
「言っておきますけど橘先輩に免じてですから」
「…しゅん」
あからさまに落ち込む恋海さんは無視する。
あれは構って欲しくてやってるだけだろうし。
「すまないな」
「いえ、気にしないでください。それに今日はもう用が入ってますのでこれで帰らせてもらうつもりですし」
時計を見ればバイトの時間までもう1時間を切っている。
まあ走れば間に合うだろう。
「あぁ、今日は呼び出してしまってすまなかった。気を付けて帰るんだぞ?」
「はい、それでは失礼します」
そうして俺は落ち込んだふりをする恋海さんへも一言声を掛けて生徒会室を出たのだった。
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