ある後輩〜その2「戸倉さん」(2)
そんな戸倉さんといえば誰もが思い浮かべる有名なエピソードが「密閉事件」だ。
具体的に書くと、見る人が見るとわかってしまうので書かないが、彼女はとある果物が大好き過ぎて、ある時それを永遠に手元に置いておきたいと考えた。店頭などではカットされたものがよく売られているが、それだとすぐに腐ってしまう。
「だから、丸ごと買えば、(外皮で)密閉されてるから中身は腐りませんよね?」と戸倉さんは言った。
みんなはキョトンとして「え? まさか、ね?」「いやいや、それはないでしょう!」「それくらい、小学生でもわかるでしょ〜」などなど反論の大合唱。戸倉さんが顔を紅潮させて「密閉されてるから、永遠に腐らないんです!」と語気を強めて怒ったので、それ以上みんな反論しなかった。
あとでどうなったか訊いたら、「ある日持ち上げてみたら、中からどろどろと汁が漏れてきて汚くなっていたので捨てました」と言っていた。そうりゃ、そうだろう。
ってか、大好きな果物を、大好きだからって永遠に保存したい。その発想が私にはない。果物は、おいしい時においしく食べるものだ。
「戸倉さん・冬の二大珍事」というのもあった。
ある朝、出勤して会社のビルの一階でエレベーターを待っていると、戸倉さんがやってきた。「おはようございます!」と言った彼女は、なぜか首からストッキングを下げていた。おそらく本人的にはマフラーの陰になって見えなかったのだろう。「ちょっ、それどうしたの!? 家からずっとそうやって来たの!?」とストッキングを指差すと、「はっ」と恥ずかしそうに取って丸めて、ポケットに突っ込みながら何か考えていた。
「部屋に張ったロープに洗濯物が干してあって、オーバーを着る時かマフラーをする時に、干してあるストッキングを巻き込んでしまったんです、きっと」というのが、戸倉さんの答えだった。
もう一つは、昼休みのあとにやはりエレベーターを待っていると、足からお尻まで丸出しの戸倉さんが皆の視線を集めながら歩いて来て、私の少し前方に立った。目がテンになりながら、「ちょっ、戸倉さん、スカート!!」と大きなヒソヒソ声で慌てて注意すると、「はっ」とウエストのゴムに挟まっていたスカートの裾を引っ張り出して、「たまきさん、私の『あたたかパンティ』見ちゃったんですか!?」と言った。
いやいやいや、そういう問題じゃないし。
何パンティか知らないけど、パンティだけじゃなくて後ろ側の下半身全部見えてたから!
エレベーターに乗り込んでからも、「んもぅっ」と顔を赤らめながら、なおも私の腕を叩いたりしていたが、私は悪くないし、別に何パンティだろうが見たくなかったですけど? それより、戸惑いながらニヤけていた周りの男性社員たちの方を気にした方がよくないか?
ちなみに、戸倉さんが気にしていたそれは、ニットっぽくて分厚い、丈の長い履き物だった。
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