人間の種類〜文芸部の事件から(2)

私が大学の文芸部に入って、二年生の時にやっと部誌を発行するということになった。

編集長が決まって、部員は執筆をがんばる、そして、部としてはOB、OGに寄稿を募る。実際、部にとっての大御所の方々から、それなりの数の寄稿があったらしい。おそらくそれだけでもう、部誌の水準は保てたのだろうと思う。掲載されていれば。


ところが、遅れてるというスケジュールが、実はまったく進んでいないことが判明し、その後は編集長も三年生の二人も何か行動したのか、私たちにはさっぱりわけがわからなかった。おぼろな記憶では、大学の近所の飲食店などに広告出稿をお願いに行くという「仕事」を伝授されるべく、先輩にくっついて何軒か回ったような気もする。

が、肝心の編集作業の方はまったく進んでないまま長い時間が経過した。しまいには招集もかからなくなった。


そして、あれは最後の部会だったか、編集長を引き受けた人が私たちに謝った。何か言い訳したのだろうけど、覚えてない。

大御所の誰かが三年生に連絡してきて、部誌が出ないなら原稿を返せと言って怒っているという話があったのだけど、編集長は原稿を失くしたのではなかったか。怒ってるという時点で、すでに私には何かすごいマズいことのように思えたし、手書きの時代だったので、もし失くしたとなれば。。。

良くも悪くも、おそらくOBの方々あっての部誌だったんだろうと思う。これは「決定的な決裂」だと、その時私は思った。


それっきり、その大学のいわゆる公式な部としての「文芸部」は消滅した。

実質的には、五番目さんが潰してしまった。

長年の伝統ある部。地元の文芸ファンが本屋で買うような部誌。その歴史も存在そのものも、あまりに単純な理由で、あまりにあっけなく終わった。


もちろん、私だって非は免れない。もっと何かすべきだったかもしれない。でも、正真正銘、あのころの私には絶対に無理だった。何もわかってなかったし、どうなってるのか事情も知りようがなく、知る術も持ってなかった。今の私ならできたかもしれないけど。


その後、新しく別の文芸部のようなものができたか、あるいは誰かが呼びかけて旧文芸部を立て直したか、私は知らない。できれば、いま何らかの形で存在していてくれたら少しはホッとできる。何も知らない下っ端だったとは言え、あれは伝統に泥を塗るとんでもない不祥事で、その事件の端っこに私も同席だけはしていたから。


それからもう一つ、私は自主サークルのようなことをしていた。詳しいことは別のエッセイか別の機会に譲るけど、そこに法学部の(私は文学部)同学年の女子がいて、その子が中心的な立ち位置だった。これまた、すばらしい考えと行動力の持ち主だった。某放送局の討論番組にも出ていた。

でも、ふだんのコツコツという感じの活動には来なかったり、遅れて来たり、彼女がいないとどうにもならない時に連絡が取れなかったり。生活管理ができないのか、すべきことのバランスを取れずに何かに没頭してしまうのか。

いる時のすばらしい弁舌は、さすが弁護士を目指すだけあると思えた。悩みも親身に聞いてくれそうで、明晰な頭脳で問題を解決してくれそうな頼もしさを感じさせる。

だけど、もしあのままの彼女だったら、すぐに信頼を失うだろう。


この二つのことから私が学んだのは、「ものごとを成し遂げるためには、考えるのに長けた人だけではダメ。実務能力のある人が必要だ」ってこと。そして、人間にはどちらか一方だけが得意な人がそれなりにいて、たまに両方できる人がいる。

ビジネスの世界では当たり前過ぎる話で、かの大社長にもしっかりしたナンバー2がついていた的な例は枚挙にイトマがない。

だけど、頭と手足の両方がそろってないとものごとは進まないということを、ビジネスに踏み入れる前に身をもって体験した人はどれくらいいるだろう。と考えると、貴重な経験ではあった。


五番目さんも法学部嬢も、メチャメチャ頭がよかった(のだろう)。だけど、自分の手足を使えないのなら、手足になる人をそばに置いて(指示して)、やってもらえばよかったのだ。学生の時分には、彼らもまだその術を身につけてなかったってことかもしれないけど。


それにしても、あれは本当に相当なだった。私なんかが悔やんでも始まらないけど。。。


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