ITか、出版印刷か、はたまた?<大学〜就職>

就活に出遅れていた私は、どうしてかそんなには焦っていなかった。これは私の悪い性分なのだけど、ギリギリ挽回できるかどうかくらい切羽詰まらないと、腰が重い。しかも、どうでもいいことは少しだけやっているので、自分では「ちゃんとやっている」と勘違いしたりする。この時は、形から入るということでファイルを買って、何となく取り寄せた会社の資料をファイリングするくらいのことをしてやった気になっていた。


それでも、夏くらいには一つ内定を取っていた。よっぽどじゃなければ、どこかには引っかかる時代だった。

その会社を受けた経緯は忘れたけど、地元の大手銀行の子会社で、私にとってはまったくお門違いの業種=理系というかIT系だった。文系の私でもいいのか不安で何度も確認したけど、顧客の話を聞いてシステムの枠組みを考える段階では文系的な力が必要で、その後の実際の組み立ては入社後に勉強してできるようになってもらえばいい、というような話だった。職種としてはSEだったかもしれない。今は専門の勉強をした人が担うところ、あのころはまだそうではなかった。


いずれにしても、ほかにもっとやりたい仕事があるという漠然とした思いを秘めて、大胆にも私はその会社を滑り止めと考えた。ほかが見つからなければ、最終的にそこにお世話になろうと。


という背景のもと、もう夏の盛りだったか、あるいは夏を過ぎるくらいだったか、友だちが会社説明会に行こうと誘ってくれた会社に私は興味を持った。


本当は、出版関係を志すなら東京だった。でも、実家の事情で地元で就職するように親からきつく言われていた。自分には就職でいきなり東京などに出て行ってバリバリやれるような甲斐性もないし、これが運命なんだと自らの勇気のなさをごまかして、地元で妥協するならどういう道があるか、心のどこかで探っていた。

就職雑誌を見ると、地元にも地元のコンテンツに特化したような出版社がないこともなかった。でも、間違っても小説をどんどん出すような会社ではない。

そして、同じようなインデックスの中か、隣り合うインデックスか、印刷会社というカテゴリがあった。実際に本を刷る仕事というのはどうだろう。まだまだ漠然としているけど、少し匂ってきた。もう少し探ると、大きな印刷会社の企画部門では出版的な仕事があるとかないとか。ん〜む??


さらにページを繰ると、広告代理店なるものがあった。

確かに、コピーライターという職種がもてはやされている時代だった。そうか、彼らが属しているのはこういう業種なんだなぁ。私も、コピーライターが紹介されるような番組を見たことがあって、言葉をいじる仕事をするって自分的には「ポエム」とも通じる面が感じられて、おもしろそうだと思ってはいた。

でも、押しの強い人だけが生き残るような、サバイバル競争の激しい世界に思える。しかも、もう今から自分の意思でのこのこ出かけて行くには遅いような気がして、踏み出すに至らずにいた。


そんなこんなしてるうちに、もう内定した会社の、内定者を集めた会食に出て、自己紹介やらあいさつも済んでしまった。


そこへ、先述の友だち登場である。

今から説明会するなんてずいぶんのんびりした会社だと思ったけど、逆に言えば「今からでもいいの?」というタイミングで、しかも友だちもいっしょという心強さ。もうここまで来たら最後の悪あがきだ!という気持ちで、私たちは説明会へ行った。

それが地元の広告代理店だったのだ。

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