第20話 お祭りに、異世界へ

 「お二人は今日はこれからお祭りですか?」


 レノが羨ましそうに尋ねてくる。


「そのつもりだけど、なんのお祭りなんだ?」


「何を言ってるんですか! 今日は王国生誕祭じゃないですか! 年に1度の国を挙げての盛大なお祭りですよ!」


 呆れたようにそう言ってくる。


「いやー、俺ド田舎の村出身でこっちに来たところで、何も知らないんだよ」


 昨日リーと相談して決めた設定を早速使う。


「なるほど、それならば納得です」


 一先ず納得して貰えたようだ。


「まあ、俺達は祭りに行ってくるから。レノは仕事頑張れよ」


 そう言ってリーの手を取って早足で歩き出す。


「「あ……」」


 リーとレノの声が被った。だが、声音は全く違う。片方は手を握られたことに顔を真っ赤にして恥ずかしがり、もう片方は暇潰しの相手が行ってしまったことにガッカリして出た声なのだった。どっちがどっちかは言うまでもない。







「あの……」


 リーが顔を赤くしながら小さい声で蓮人に話しかける。


「なんだ?」


「手……」


 そう言われて蓮人は後ろを振り向くと真っ赤な顔をしたリーと手を繋いでいる自分の手が見えた。

 一瞬自分がしていることに理解が出来ず固まる。


「わわっ、ごっごめん」


 蓮人まで顔を真っ赤にして慌てて握っていた手を離す。


「そんなに慌てて離さなくてもいいじゃないですか……」


 リーが少し落ち込んでボソッとそう言うが、その声は蓮人に届かなかったのだった。

 そのまま2人は祭りの屋台が出ている通りまで歩いて行く。







 「これとっても美味しいです!」


 リーが焼きそばのようなものを食べているが、味付けはスパゲッティに近いものだった。この世界にはソースがまだ無いのかもしれない。リーもこの麺を食べたことはないらしく、最近作られた物なのかもしれない。そうならばソースが作られて本物の焼きそばが作られるのかもしれない。

 まあ今回は別物と考えて普通に美味しく頂くのだった。


 それ以降も様々な出店を見て回った。

 そこにはブレスレットなど、アクセサリーの類が置いてある店もあった。


「あそこ見てもいいですか?」


 リーが少し遠慮しがちに蓮人に尋ねる。その上目遣いに蓮人はやられ、またも顔を赤くするのだった。


「う、うん……」


「やった!」


 リーはそのお店にトテトテと走って行く。その後ろ姿を蓮人は可愛いなと思いながら眺めているのだった。





 「これ、とっても綺麗です……」


 リーが手に持っているのは透き通った青色の石のブレスレットだった。確かにかなり綺麗である。


「いいね、それ」


 ブレスレットを見ていると思いきや、それを持っているリーを見ているだけの蓮人だったのだが。

 しかし、気に入ったはずなのにそのブレスレットを元の位置に戻した。


「あれ、買わないのか?」


「あ、はい。いいんです」


 ブレスレットについている値札を見ると五千ゴールドとあった。お祭りの出店の金額ではない。


 (あー、ちょっと高めだからか)


 ゴブリンキングの件での報酬が五万ゴールドであったことを考えると安い金額では無いが手が出ない金額ではない。


 (ちょっとカッコつけるか)


「すいません、その青のブレスレットください」


「はいよ」


 蓮人は店員にそう声を掛けた。

店員はニヤニヤしながらこちらを見ている。


「え、そんないいんですって!」


 リーは首をブンブン振って断ろうとするが、蓮人が阻止する。


「いいんだよ、俺からのプレゼントだ。それにお金が無くなってもまた稼げばいいさ」


「あ、ありがとうございます」


 格好つけて胸を張る蓮人と、満面の笑みを浮かべるリーであった。


「はい、まいど」


 蓮人はゴールドを渡してブレスレットを貰う。

なぜかブレスレットには包装がされてあった。


「おあついお二人さんのために、包装しといたぜ」


 そう言って店員はニッと笑ってグッドマークをした手を蓮人に突き出した。


「おあついだなんて……」


 リーはまた顔を真っ赤にして俯いていた。


「はい、これからもよろしくな」


 蓮人はブレスレットをリーに渡す。

 それを受け取ったリーは、少し目に涙をためながら、でもとびきり良い笑顔を浮かべて


「ありがとうございます! こちらこそ、よろしくお願いします!」



 こんなやり取りを店の目の前でしていたので、周囲の注目を集めていたのは言うまでもない。

 その中の視線には、温かい目では無く獲物を狙う目も混じっているのだった。

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