第21話 盗人を捕まえに、異世界へ
リーは先程から鼻歌を歌ってかなりご機嫌である。左手には青色のブレスレットが光っている。
蓮人はそんなリーを見て少し頬を赤らめながら、出店の並んでいる道を歩いて行く。
「そろそろお昼ご飯にしませんか?」
リーは蓮人の顔を覗き込みながらそう尋ねてくる。
「あ、ああ。そうだな」
「あの店なんてどうですか!」
コロッケやメンチカツのような揚げ物を揚げているお店だった。
「歩きながら食べられそうだし、いいかもな」
2人はそれを買いに向かう。
2人分注文し、代金を払おうとしてゴールドの入った皮袋を取り出した時、その店の横にある細い路地から何者飛び出し、蓮人に向かって走り出す。そのままの勢いで皮袋をひったくり、人の多い路地を走り出す。
蓮人とリーは何が起こったのか分からず、一瞬固まった。そしてすぐに追いかけ始める。
「おっちゃん、ちょっと待っててな」
コロッケを用意してくれていた店員にそう声を掛け、すぐに追いかける。
ひったくって行った人は薄汚れたローブを着てフードを深く被っており、背がかなり小さい。後ろ姿から判断するに、おそらくまだ10歳程度の少年だろう。
だがその足はかなり速く、人混みをすいすいと潜り抜けて行く。
一方蓮人たちは人混みのため全力で走ることが出来ず、どうしても追いつくことが出来ない。
(このままじゃ逃げられちまう)
逃げられてしまっては、蓮人とリーの全財産と言ってもいいほどのゴールドが無くなってしまう。それだけはなんとしても防がなければならない。2人して今日のご飯どころか宿すらも泊まれなくなってしまう。
(それはまずい……!)
蓮人はとうとう最終手段の無属性魔法を発動し、空に高くジャンプして屋根に飛び乗った。
「リー、挟み撃ちだ。そっちはそのまま追っかけてくれ」
「りょ、了解です!」
その声を聞いて蓮人は屋根をつたって追いかけていく。上からならば少年がどこにいるのか見失う心配もなく、人もいないため簡単に距離を詰めることが出来た。
少年はそれに気づくことなく、撒いたと考えたのかそのまま行き止まりの裏路地に入ってしゃがみこんで休憩している。
その手には皮袋が握られており、満足そうに笑っている。
蓮人はリーがやって来たのも確認して、その少年の前に飛び降りる。
「さあ、観念してそれを返すんだ」
少年は蓮人に気づいて立ち上がり、逆の方向に逃げようと背を向けるが、その正面には大の字になって通せんぼをしているリーがいる。
とうとう観念したのか、少年は蓮人に目を合わせることなく皮袋を返した。
そのときにグーっとお腹の鳴る音が聞こえた。蓮人はリーの方を向くが、すごい勢いで首を振っている。失礼なと言いたげであるが無視する。となると少年しか残っていない。
「もしかして腹減ってんのか?」
「……もう3日何も食べてない」
その問いかけに、少年は小さな掠れた声でそう返す。
蓮人は困った顔で頭をわしゃわしゃとかく。
「ご飯くらいなら、買ってあげましょうよ」
リーもそう言うので、仕方ないとため息をつく。
「飯食わしてやるからついてこいよ。俺達も今から昼飯だからな」
「ほんとか! 飯だ飯だ!」
さっきまで元気がなかったはずなのに、現金なやつである。
「うまいうまい!」
先程のコロッケのようなお店に戻ってきた蓮人達は次から次へとたいらげていく少年に目がいってしまい自分達の分を食べるのを忘れて手が止まっていた。
ふと我に返った蓮人は、少年に名前を尋ねた。
「おいらはポチだ」
口にコロッケがたくさん入った状態でモガモガそう答えた。
「ポチって名前なんだな。後口に物が入ってるときに喋るんじゃないよ」
蓮人は名前を聞いて犬を思い浮かべていた。確かにどことなく犬に雰囲気が似ている気がする。リーはポチの頭を撫でていた。
「ポチ、親とかはいないのか?」
聞くのを少しためらったが、他にどうしようもないので単刀直入に聞いてみた。
すると、ポチはコロッケを食べる手を止めた。
「おいら、気付いたらこの街にいたんだ。だからどこにいるのか分かんない」
蓮人はどうすればよいのか迷う。そんな状況であるならば盗みをしないと生きていけないのは確実であるのだが、許されることではない。かといって警備隊に突き出すのも酷な話である。
「私達でポチちゃんの親を探してあげませんか?」
「うーん、やっぱりそれしかないよなあ。ポチ、親が見つかるまで俺たちと一緒においで。俺たちが探すのを手伝ってやるよ」
「ほんとか! わーい!」
やはり年相応の少年である。このくらいの子供は親と過ごすのが一番良い。身をもって知っている蓮人は早く見つけてやると決心するのだった。
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