第16話 リアムの過去に、異世界へ

「ゴブリンキングどもの解体も終わったし、昨日の所で今夜は野営して、明日の朝、街に帰るとするよ」


 機嫌が直り、いつも通りになったギルドマスターはそう決めた。それに反対する者もおらず、皆それに従って昨夜の川辺に向かって纏まって歩き出す。


「疲れたなぁ」


 蓮人はそんなことを呟き周りを見るが、やはり皆疲れているようだ。ギルドマスターとリアムはピンピンしているように見えるのだが。さすがこの中では高ランクの2人なだけはあるようだ。

 リーの普段は大きな目が今はトロンとしていて細くなっている。というかほぼ開いていない。


「おい、起きろ! コケるぞ!」


 蓮人はそんなリーの肩を揺らして起こす。


「はっ、寝てました」


 ビックリして起きる。

 そんなことを繰り返しながら蓮人とリーは2人並んで歩き、ギルドマスターについて行くと目の前に昨夜の川と後始末した火の後が見えてくる。


「よし、着いたね。さっさとご飯の準備して休むとしようか」


 そう言ってギルドマスターは今日もスープを作り出す。皆は昨夜の味を思い出して腹を空かせながらテントを張るのだった。






「よし、出来たよ。今日は奮発して1人2杯までにしといてあげるよ」


「「やったー!」」


 皆ギルドマスターの美味しいスープに喜ぶ。

 昨夜とは違い、話に花が咲きながら食事が進んでいく。食事が終わっても話が終わることは無く、ギルドマスターとホライズン、ウォーターパークスがそれぞれの過去の冒険の話を語りだし、夜が深まっていく。

 気づけばリーは蓮人の隣で船を漕いでいる。

 それに気づいたギルドマスターは


「そろそろ休むとしようか。リーはお疲れのようだし今日はぐっすり眠らせてやろう。見張りの順番だが、蓮人とリアム、ウォーターパークス、あたいとホライズン、の順にするよ」


 そう決めて片付けを始める。


 (リアムと2人か……)


 リアムのことを好ましく思っていない蓮人は気まずさを拭えないが、仕方ない。我慢して時間が過ぎるのをただ待つのみだ。

 そして片付けを終え、皆テントに入って休みだし、リアムと2人の時間となるがお互い口を開くことなく時間が過ぎていく。

 だが、リアムがそんな沈黙を破る。


「俺は昔、オアシスというパーティーを組んでいた」


 いきなり始まったリアムの過去の話に、蓮人は意味が分からないという顔をしてしまう。


「いいから聞け」


 リアムのそんな言葉に蓮人は頷くしか出来ず、話が続けられる。


「オアシスは俺ともう1人ノエという魔法使いの2人パーティーでな、当時俺達はかなりの早さでBランクになった。自分で言うのもなんだが有名なパーティーだったな。若気の至りというやつなのか、本当にバカだったよ。そこで俺は強いと思い込んで天狗になってしまった。ノエは毎回気を引き締めてくれていたはずなのにな。

 あるとき、アースドラゴンという空は飛べない下位の竜種の討伐依頼が入ってな、俺達はその依頼を受けることにした。一応Bランクモンスターで油断なくやれば勝てたはずの勝負だった。

 だが、天狗になっている俺は、何も考えずにただ先手必勝とばかりに斬り掛かってしまった。下位とはいえ竜種に力が適うはずもなく、俺はボロボロにやられ、剣も折れて戦う術を無くした俺はもう立ち尽くすしか無かった。

 そこにアースドラゴンが爪を振り上げていた。あの光景は今でも覚えている。どんな剣よりも鋭く鈍く光っている凶悪な爪だ。

 俺はそこで恐怖してな、動くことが出来なかった。俺はもう死ぬというそんな気がして、諦めて目を瞑ってしまった。そして爪が振り下ろされる。その瞬間俺は弾き飛ばされ、目を開けると目の前でノエが背中で爪を受けて血が吹き出していた。

 そしてノエが俺を見て口を『生きて』って動かしたんだ。

 そこから、俺は必死に走って逃げるしか出来なかった。そして振り切って逃げることが出来て、俺は助かった。

 だが、そこで俺はたった1人だった大事な仲間を無くした。いや、無くしたなんて言い方はおかしいな。

 俺があのとき天狗にならず無闇に斬り掛からず、冷静に策を立てて連携もしていたのなら、ノエは死ぬことはなかったかもしれない。

 だから俺がノエを殺したんだ。

 今でもこのときのことを夢に見てうなされるよ」


 リアムは酷い顔をしながら、自身の過去について語った。その頬には涙がつたっていたのだった。

 蓮人はその話に衝撃を受け、口を開くことが出来なかった。否、どんな言葉をかければよいのかが分からなかった。


「俺がこんなんだったからな、昨日までのお前が俺と被ってしまってな。蓮人とリーには理由も言わず戦闘に参加するなと言ってしまった。申し訳なかった」


 そう言ってリアムは蓮人に頭を下げる。


「頭を上げてくれ。俺はあんたに感謝してる。あんたのおかげでリーを、俺の大切な仲間を無くさなくてすんだよ。ありがとう」


 そう言って蓮人はリアムに手を差し出す。ギルドではすることが出来なかった、握手だ。今度はリアムもその手を握り返し、固く握手をするのだった。

 その後、会話をすることは無かったが、2人の中には最初の頃の気まずさはもう残っていなかった。

 そして見張りの交代の時間になり、そのまま朝を迎える。

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