第15話 ゴブリンキングの退治に、異世界へ
ギルドマスターは額から汗を流しながら、ゴブリンキングの振り回す剣をひたすらかわし続けている。
(さあ、どうする)
ゴブリンキングを討つためには弾き飛ばされた剣を拾わなければならないが、ゴブリンキングはギルドマスターに剣を拾わせないよう、常に剣がある方が背になるように追い込んでいた。
(いよいよこれはピンチだね)
一旦後ろに大きくジャンプして距離をとるギルドマスター。その時、ゴブリンキングの後ろの茂みに蓮人が回り込み、隠れているのが見えた。その周囲の茂みにもリーやリアム達が潜んでおり、攻撃する機会を待っている。
(……しょうがないか、この方が確実だもんね……)
それに気づいたギルドマスターは下を向きながら立ち止まる。ゴブリンキングには見えないが、その顔は悔しそうな、でもどこか嬉しそうにも感じられた。
それを見たゴブリンキングは、ギルドマスターが観念したと思い込み、卑下た笑いを浮かべながら剣を放り捨てる。
(やっぱりゴブリンはキングでもゴブリンだね)
その瞬間、蓮人のファイアボールがゴブリンキングの後頭部に炸裂する。
「グギャギャギャァァァァ」
先程の卑下た笑いとは一転して苦悶の声を上げてうずくまり、手で火を慌てて消す。そうしている間にもまた次の魔法が放たれる。
「「ウインドアロー!」」
「「ウォーターボール!」」
それらの魔法はうずくまっているゴブリンキングを吹き飛ばす。
また、次の瞬間には剣士達が吹き飛んでいるゴブリンキングに斬り掛かる。
サイクが左肩に剣を振り下ろして左腕を切断し、オットが同じように右腕を切断する。そのままリアムがゴブリンキングの懐に潜り込み、胸を剣で貫く。蓮人はゴブリンキングの後方から走り込み、そのまま勢いで首を両断する。
全員がその場から飛び退く。その瞬間、ゴブリンキングは切断された首と風穴の空いた胸から血を吹き出しながら崩れ落ちる。
「よし、勝った!」
蓮人はそう声をあげ、勝利を噛み締める。
「やりましたね! 蓮人さん!」
リーも嬉しそうに蓮人に話しかける。
「ああ、俺達の勝利だ!」
そう言って2人は笑顔で顔を見合わせる。
(なんか少し小っ恥ずかしいな)
2人は頬を赤らめながら、顔を見合わせていた。リーはそんな自分の状態を理解して、慌てて目を逸らす。声をうわずらせながら、
「みっ、皆の所に行きましょうか」
リーはそう言って蓮人に背を向ける。
だが、そのせいで蓮人に真っ赤な耳が丸見えだ。
(あー、かわいい)
そんなことを思いニヤけながら皆の方を振り向くと、ギルドマスターはしゃがみ込んで地面に『の』の字を書いていた。
(いや、小学生か!)
内心でそんなツッコミを入れながら、蓮人とリーはそんなギルドマスターに近づく。
近づくと、何かブツブツ呟いているのが聞こえる。
「あたいがやるって言ったのに……」
(まんま小学生か!)
そんな言葉が聞こえてきたので蓮人はズッコケてしまう。
ギルドマスターをサイクとマリの2人が慰めている。そんな中、リアムは我関せずと木に寄りかかって目を瞑り、オット達はウォーターパークスの面々でお互いを讃えあっていた。
「いえいえ、ギルドマスターの活躍のおかげで勝てたんですよ! ギルドマスターが居なかったら僕らなんて今頃は…… ああ、口に出すのも恐ろしい……」
「その通りですよ。ああ恐ろしい……」
芝居がかった声音と身振りでそう言う2人。
蓮人とリーは我関せずでその光景を見ていたのだが
「それに、ギルドマスターの剣技は凄かったですよ。惚れ惚れしました。ね、蓮人?」
急にサイクから話を振られた。2人の目が、『お前だけには楽をさせないぞ、さあこっちへ来い』と告げていた。正直かなり怖いが、行かない訳にはいかない。
「そ、そうですよ! あの身のこなしは刀を使う俺としては憧れですし、俺も連携の大切さをこの戦いの中でしっかり学べましたし!これは何もかも素晴らしいギルドマスターのおかげですね!」
普段ギルドマスターには使わない敬語を使ってそう話す蓮人。
すると、いきなりギルドマスターが『の』の字を書くのをピタッと止め、急に立ちあがった。
「はっはっは、まあそうだろうな! そんなに褒めんなよ!」
ギルドマスターは満更でも無さそうに胸を張ってそう言う。言葉とは裏腹にもっと褒めろというオーラが出ていた。
(なんか、思ったより子供だな。イメージが……)
蓮人の中の、強く頼れるイメージだったギルドマスターは崩れ去るのだった。
(まあでも、これはこれでいいよな。ギルドマスターも人間なんだもんな)
そんな中もギルドマスターの笑い声とサイクとマリの煽てる声が響くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます