第17話 討伐依頼の打ち上げに、異世界へ

 「「「おかえり!」」」


「「「ありがとう!」」」


「「「よくやってくれた!」」」


 そんな言葉が街に帰ってきてギルドに向かう蓮人達にかけられる。


 (いい気分だ。頑張ったかいがあったな)


 それに皆は手を振る。

 蓮人の頬が緩んでいる。周りを見ると、皆の頬も緩んでいる。リアムだけは普段と変わらないがなんとなく喜んでいるような雰囲気が出ているようにも思える。一方でギルドマスターは大声を上げて笑い感謝しろよと言っている。相変わらずだ。


 (後でゴブリンキングの時のイジけていたギルドマスターの話を言いふらしてやろう)


 そんなことを考えているとギルドに着いた。

 中に入ると、中でもたくさんの人が出迎えてくれ、それぞれが祝福を受ける。

 勿論、蓮人とリーもレノから祝福を受けていた。


「お疲れ様です! 無事に帰ってきてくれて安心しましたよ! 依頼の達成もおめでとうございます!」


 そう声を掛けて、我が身のように喜んでくれるのだった。

蓮人とリーはそれにホッコリして疲れが吹き飛んだ気がした。


 そして少し経った後、ギルドマスターから静まれという大声がギルド内に響く。


「あたい達は無事ゴブリンの群れを討伐してきた訳だが……」


 そう言ってギルドマスターは話を止めて俯く。そんなギルドマスターの様子に何か悪いことでもあったのかと不安になる人達もいる中、誰1人として声を発する者はおらず、ただギルドマスターの次の言葉を待つ。


「約束通り、今日はあたいの奢りで打ち上げだ!!!」


 ギルドマスターは人の悪い笑みを浮かべながら、手を天に突き出し、そう叫ぶ。

 一瞬の沈黙の後に、建物が揺れるほどの大歓声が上がる。タダ飯だああああ、なんて叫んで喜んでいる奴もいる。タダ飯はこの世界でも共通で喜ばれるものらしい。

 蓮人も手を挙げて喜んでいる。なんだかんだ言ってもまだアルフェウムにやってきてまだ4日目なのだ。美味しいご飯をタダで食べられるのは非常に喜ばしいものである。


 喜ぶのも束の間、打ち上げの準備が始まる。タダで飲み食いするんだから準備と片付けは手伝えというギルドマスターの命令に逆らうことは出来ず、テーブルを出したり椅子を片付けたりする。どうやらビュッフェスタイルらしい。

 そして奥からは沢山の料理が運ばれ、テーブルいっぱいに並べられる。

 その料理は日本でも見覚えのあるものばかりである。サンドイッチやスパゲッティ、ハンバーグなど西洋の料理ばかりなのだが。


 (料理は日本で食べてたものと全然変わらないんだな)


 リーに料理の名前を尋ねても、同じ名前である。もしかすると蓮人のように異世界人がアルフェウムに来ていて料理を伝えたのかもしれない。


 そんなこんなで準備も終わり、皆に飲み物が配られる。蓮人とリーはいつものようにオレンジジュースだ。

 そしてギルドマスターも飲み物片手に、なぜか用意されている壇上に登る。そして乾杯の音頭を取り始める。


「ゴブリンの群れの討伐達成と、あたい達の帰還を祝って、乾杯!!!」


「「「乾杯!!!」」」


 皆声が揃い、飲み物をそれぞれ打ち合い、そして料理に手を出し、酒をガブガブ飲む。

 冒険者達の酔いが回ってくると、自分達の冒険の武勇伝を語り出す時間がやってくる。やれ、俺はどんなもんモンスターを倒しただのどんな依頼を達成しただの、そんな話で盛り上がる。

 そして蓮人にもその順番は回ってくる。

 今回のゴブリンキングの討伐の話をする訳だが、ちょっとした出来心で、小学生のようなギルドマスターの話をしてしまう。皆にその話が大ウケしていい気になってしまい、少し誇張して話してしまった。それが間違いだった。

 そんな蓮人にギルドマスターは後ろから音もなく忍び寄る。話を聞いていた集団はそんな鬼のような形相のギルドマスターに気づいて、我先にと逃げていく。それに気づかずまだ話を続ける蓮人。もうすぐ後ろに居る。

 蓮人の右肩がポンポンと2度叩かれる。


「なんだよ、今いいところなのに」


 そう言って振り向く。その瞬間蓮人はまるでメドゥーサと目が合ってしまったかのように凍りついた。


 その場にいた他の者の心情として、『あいつ死んだわ』で満場一致である。そして蓮人としてもそれに反対しない。


「蓮人くーん。君、天狗になる癖、抜けてないみたいだね。ちょっとあたいとあっちに行こうか。しっかり教育し・て・あ・げ・る」


 いつもとは程遠い猫撫で声でギルドマスターはそう言う。口元は笑っているのだが目が本気で怒っており青筋を立てている。ゴブリンキングなんて比にならないくらい怖い。


「は、はい……」


 蓮人に拒否権がある訳もなく、別室に連れ出される。その部屋からはとんでもない絶叫が聞こえてくるのだった。その中の様子を表すことなんて出来ない……。

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