第13話 もう一度助けるために、異世界へ

「いい加減起きな! 飯だよ!」


 そんな言葉と共に蓮人の頭が蹴られる。

 パッと目を覚まし見上げるとギルドマスターが仁王立ちで立っている。

 蓮人はそのまま無言で立ち上がりギルドマスターに続いてテントの外に出て、スープを取り皆と少し離れた場所に座り1人黙々と食べ始める。昨日美味しかったスープも今日は味がしなかったのだった。


「今日は蓮人には荷物運びで、戦闘に参加して貰わないことにするよ」


 ギルドマスターはなんでもない事のようにそう言い、それに対し誰も何も言わない。蓮人もそれを聞いても反応することもなく、ただ黙々とスープを食べ続けるだけであった。

 そのまま食事が終わり、火の後始末もして準備が終わる。


「じゃあ行くよ」


 その一言で、先頭がギルドマスター、続いてウォーターパークス、蓮人、ホライズン、リー、リアムの順番で隊列を組んで歩き出す。

 今日もゴブリンが襲ってくるのだが、それら全てがギルドマスターや、ウォーターパークス、ホライズンたちの連携によって返り討ちにされる。そんな光景を見ているだけだが、それが蓮人の胸にナイフのようにグサグサと突き刺さる。

 そのまま進み続けると、急にギルドマスターが歩くのをやめてしゃがみ込んだ。


「こっからは静かにしな、お客さんがお見えになったよ」


 そこからはゴブリンの群れが見えていた。








 全員、あれからゴブリンの群れ全部を見下ろせる高台に移動し、作戦を練っていた。


「今回の作戦だが、あたい、リアム、サイク、オット、ジェフが同時にここから飛び降りて斬り掛かる。その後ろを残りが続いて援護をしてくれ。だが蓮人はそのままここで待機だ、いいね?」


 そこで一旦区切り、周りの顔を見る。皆が頷いていることを確認してからギルドマスターはまた話を続ける。


「そのまま片付けてったら、おそらく痺れを切らしてゴブリンキングが直々に出てきてあたい達を殺しにかかるだろう。ゴブリンキングは体長2メートル程で自分とそんなに変わらない大剣を振り回してくる。そいつが出てきたらあたいが相手をするよ。そのために、ゴブリンキングが出てきたらあたいがそこに行くための道を作ってくれ。そうすりゃ倒してやるからさ」


 ギルドマスターは自信もやる気も浮かんだ笑みを浮かべながらそう言う。昨日のギルドマスターの剣技を見て文句を言う人はおらず、そのままその作戦でいくことになる。作戦といえるのか怪しいところではあるのだが。


「最後に皆武器の点検しておくんだよ」


 その言葉に従って皆が点検を始める。その中でギルドマスターは蓮人に近寄ってきて


「戦闘の初めは待機とは言ったが、その後はどうしろとも言ってないよ。自分で考えな」


 蓮人にだけ聞こえるような小さな声でそれだけ言うとまた離れ、また皆に声を掛ける。


「さあ、そろそろ始めるよ!」


 ギルドマスターが不敵な笑みを浮かべながら、剣を抜く。それに続いて皆剣を抜き、杖を構え、臨戦態勢に入る。


「行くよ!」


 そう言って高台からギルドマスターは飛び降りる。それに合わせてリアム、サイク、ジェフも飛び降りてゴブリン達との戦闘を始める。そのままリー達も飛び降りて援護を始める。

 ギルドマスター達は各々剣を振り回す。その度にゴブリンどもの首やら手やらが飛ぶ。

 オースとマーブは水属性魔法で泡を生み出し、マリはゴブリンに向かい風を生み出し、リーはその両方を状況を判断しながら使い分けている。

 そんな中、蓮人は1人待機しているだけで、皆の戦いを見ているしか出来なかった。


(くそ……)


 何も出来ない自分が許せない。気づけば歯をギリギリと噛み締め、手が白くなるほど強く拳を握っていた。

 それほどに悔しかった。でも、ここから飛び出せない。自分のせいで皆を殺してしまうかもしれないから。そんな考えが足を止めさせる。

 ゴブリンだけでなく、とうとうホブゴブリン達も出てきたことで少しづつ戦況が悪くなり囲まれ始める。


 そんな中でもまだ皆を助けに行けない。


(ちくしょう……)


 蓮人の目から一筋の涙が頬を流れ落ち、握りしめた拳を地面に叩きつける。


(くそ、くそ……)


 そんなとき、1体のホブゴブリンがリーの後ろから飛び出し、斬りかかって来る。マリ達の援護も間に合わず、ホブゴブリンはリーに向かって剣を振り下ろす。慌てて杖で受けるのだが、力でかなうわけもなく杖もろともリーは蓮人が居る場所の下に弾き飛ばされる。

 慌てて体を起こすが既にゴブリン達に囲まれ、ギルドマスター達も間に合いそうにない。絶体絶命のピンチだ。


「誰か……助けて……」


 リーが小さな声でそう呟く。なぜか蓮人にはその声がはっきりと聞こえた。

 蓮人はリーと初めて出会った時のことを思い出す。


 (あのときも、今みたいにゴブリンに囲まれてて絶体絶命のピンチだったんだよな…… それで『誰か……助けて……』って小さな声で言ってた)


 蓮人は顔を上げる。その顔つきはさっきまでの泣きっ面ではなく、決意に満ちた顔だった。


 (そうだ、俺はリーを助けてやりたかっただけなんだよな。なのにちょっと自分が強かったからって天狗になってこんなことになって。本当にバカだな、俺は。リーは俺の仲間なんだ。俺が助けなくてどうすんだ!)


 刀を抜く。その瞬間、蓮人の体から白い光が溢れ出す。その光は、今までよりも一際強く優しい光だった。

 そのまま、蓮人はリーの目の前に飛び降りる。


「助けに来たぞ、リー」


 蓮人はそう言ってリーに向かって笑いかける。蓮人の顔を見た瞬間、リーはまたあの時のように泣き出すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る