第12話 天狗の鼻をへし折りに、異世界へ
「は? ちょっと待てよ。意味わかんねえよ」
蓮人は少し声を荒らげ、リーに詰め寄ろうとするが、それをサイクが押さえ、なだめる。
少し落ち着いた蓮人は、その理由をリーに尋ねる。
「蓮人さんが自分1人の力で倒したと思っているからです」
そんな言葉を返されるが、蓮人は納得がいかない。
「実際そうじゃないか!」
「そんなんだからリアムさんは、蓮人さんが死ぬからやめろと言うのです! 蓮人さんは今日のゴブリンとの戦いの時に周りを見ていなかったのですか? 私やウォーターパークスの皆さんがいきなり飛び出した蓮人さんのフォローをするのに慌てていたことを。フォローが無ければ蓮人さんはおそらくあの場所で死んでいましたよ」
リーが顔を真っ赤にして泣きそうになりながら、そう声を荒らげる。
蓮人はそんなリーにみっともなくもまだ反論する。
「だが、オットも俺のこと中々やるって褒めてたじゃないか」
リーは一息ついて落ち着き、冷静な声で
「確かに、蓮人さん個人の力量でいえばその通りかもしれません。実際Dランク以上の力量でしょう」
目を合わせず、目の前の炎を見ながら、そう言う。
「なら!」
その後も蓮人は言葉を続けようとするが、それをリーが遮る。
「でも、今の蓮人さんには無理です」
そう言ってリーは泣き崩れる。そんなリーにマリは寄り添って背中を擦ってあげているが、そこに蓮人は混ざることは出来なかった。
「リー、こっちにおいで。見張りは他の3人でやりな!」
そう言ってテントからギルドマスターが出てきて、リーの背中を擦りながらそのまま連れて戻る。
「なんなんだ、本当に分かんねぇ」
蓮人がそんなことを呟く。
「君は本当に彼女の言っていることが理解出来なかったのかい? それなら本当に戦いに参加するべきじゃないよ。悪いことは言わないから帰りなよ」
あの人当たりの良いサイクが少し軽蔑したような目で蓮人を見てそう言う。
「お前までなんなんだよ!」
蓮人はイラだって大きな声を上げる。
その声に釣られて3体のゴブリンがやってきた。
「丁度いい、君一人でその3体を倒せるのかやってごらんよ。死にそうになったら助けてあげるからさ」
サイクは煽るように蓮人にそう告げる。
「いいだろう、やってやる。二度とそんな口きかせねぇからな」
そう言うと、刀を抜いて薄く白い光を纏いながら、ゴブリンに斬り掛かる。どこかしら蓮人の纏う光が、心なしか普段より薄く切ない色をしていたのだった。
「くそ! なんで当たんねぇ!」
蓮人は刀をゴブリンに向かって何度も振り回すが、それらは簡単に避けられる。また、1体が蓮人と斬り合っている間、残りの2体は蓮人の死角から斬りかかってくる。それらを寸前で避けるが、そんなゴブリン達の連携を崩すことが出来ず、蓮人は防戦一方になる。
とうとう死角からの攻撃を避けきれず、蓮人は転けてしまう。そのまま転がって距離をとるが、ゴブリンの追い打ちをかけられ、それは避けることが出来ず刀で受ける。だが無理な体勢で受けてしまったことで、そのまま刀を弾き飛ばされ、蓮人も地面に倒れる。
「だから言わんこっちゃないじゃん」
サイクとマリが武器を構えてこっちに来る。ホブゴブリンを倒した時のあの連携を使い、一瞬でゴブリン3体を斬る。
「分かった? 君ひとりじゃ何も出来ないってことが」
蓮人は地面に伏したまま、サイクの言葉を受け入れるのだった。
蓮人の慢心して大きくなっていた心は音を立てて崩れる。
「君個人の力量で言えば、オットも褒めるくらいには確かにすごいよ、それは僕も認めよう」
真剣な顔をしたサイクが地面に伏している蓮人を起こしながらそう言う。
「だが、君も今身をもって体験しただろう? 連携の大切さを。そんなことも分からずに、自分勝手に行動するやつは自分の身だけじゃなくてその周りの人をも殺しかねない。だから、個人の力で勝ったと思っている君には、リーちゃんもリアムも戦いには参加するなって言ったんだよ」
ようやく全てを理解した蓮人。
「後は自分でどうすればいいのか考えなよ。リーちゃんの涙の意味もよく考えな」
それ以降会話もなく、ただ夜が深まっていき見張りの交代の時間がやってくる。
オットがテントから出てくると蓮人の肩をポンポンっと2度優しく叩いて
「さ、今日はもう寝とくんだ」
そう優しく声を掛ける。それに従って蓮人はテントに入って寝転がる。
(俺は周りに褒められて天狗になってただけで、皆のおかげでオレが強くいられただけなんだな。バカだな、俺は……)
そのまま気が滅入って落ち込む蓮人。
だんだんと意識が薄れ闇の中に落ちていく。
(また1人か……)
蓮人は涙を流しながら眠りに落ちるのだった。
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