第11話 参加しないように、異世界へ

 「は?」


 理解できないという風に蓮人は声を上げる。


「いや、お前ら見てただろ? 俺一人で7体倒してやったぜ?」


「だから参加するなと言っているんだ」


 リアムは蓮人をそう睨みつけながらそう吐き捨て、話は終わりだとばかりにその場を離れて行く。


(なんなんだよ、あいつ)


 納得のいかないままリー達の元に戻る。


「お前中々やるじゃないか!」


 オットにそう言われながら背中をバシバシ叩かれる。

満更でもなさそうに


「まあまあ、ゴブリン程度ですからね」


  胸を張りながらそう答えるが、リーが俯いて黙り込んでいることに蓮人は気が付かないのであった。


「さあさ、終わったことだし日もそろそろ暮れてくる。この先に川があるみたいだし、そこで夜営するとしよう。さあ行くよ」


 そう言ってギルドマスターはずんずんと進んで行く。皆その後に続いて歩いていくのだが、街を出た時とは違う、どこかぎこちない雰囲気があるのだが、そのことに蓮人は気が付かない。









「さぁ、テントも張り終わったな。蓮人、火属性魔法で火を焚いてくれよ。あたいがスープでも作ってやるよ」


 蓮人はギルドマスターの作るスープと聞いて少し不安になりながらも、火をつける。

 かなりの手際の良さで、ものの数分で辺りにはいい匂いが漂う。マリの風魔法で蓮人達の周り以外には匂いがいかないようにされているので、匂いによってモンスター達が寄ってくる心配もないので安心である。


「さあ出来たよ。皆こっちに集まりな、1人1杯までだよ」


 ギルドマスターのその声で皆が火を囲み、スープをよそいながら、日持ちの良い携帯食である黒パンを出してそれぞれ食事を始める。


「「おいしい!」」


 皆が声を揃える。


「あったりまえよ。あたしゃ剣の腕前も料理の腕前も超一流の元冒険者だからね」


 胸を張りながら自慢げなギルドマスターである。


「そうだったんだな」


「蓮人知らなかったのかい?  ギルドマスターは名の通った元Aランク冒険者なんだよ?」


 サイクにそう言われて、ギルドマスターの昼の戦いを思い出す。それならばホブゴブリンを相手にしたときのあの圧倒的な剣技にも納得である。


 それからも話に花が咲く……とはいかず、ぎこちないながらも会話が続いていき、夜が深まっていく。









「じゃあそろそろ寝るとしようか、見張りを3交代制にしたいと思ってるんだがそれでいいかい?」


 ギルドマスターは皆の顔を見回し、皆頷いているのを確認し、そのまま話を先に進める。


「見張りの順番なんだが、1番目がホライズンと蓮人とリーの4人、2番目がウォーターパークス、最後があたいとリアムだ。いいね?」


 そのまま話がまとまり、ホライズンと蓮人とリー以外はテントに入って休む。

残りは周囲を警戒しながら、小さな声でまた会話を始める。


「蓮人凄かったね。Dランクとは信じられないよ。リーももちろんね。魔法を使い始めてすぐとは思えない反応速度と判断力だったよ」


 褒められて満更でもない蓮人である。それに対し、リーも褒められたはずなのに浮かない顔をしている。それに気付かない蓮人は褒められていい気分のまま上機嫌で話を続ける。


「ホライズンの連携も物凄かった。特に最後のマリのあの魔法だよ! あれって風魔法なのか?」


「そうだよ! サイクとホブゴブリンが対峙していたから、サイクには追い風に、ホブゴブリンには向かい風になるような風を生み出して、相対的にかなり早く動けるようになる援護系の魔法だよ!凄いでしょ!」


 えっへんと胸を張って威張るマリにうんうんと頷く蓮人。


「リーもそう思うだろ?」


 話を振るが、リーは俯いたままで返事をしない。疑問に思った蓮人はリーの顔をのぞき込む。


「どうしたんだ?」


「……蓮人さんは、本当に今日の戦いを良かったと思っているのですか?」


 リーの真剣な眼差しが蓮人に向けられ、そんな言葉が問い掛けられる。


「あ、ああ。勿論だよ。俺一人でほとんどのゴブリンを倒したわけだしな」


 一瞬つまるも自慢げに言う蓮人の返事に少しガッカリしたように、リーは目を伏せながら


「……そう思っているならば、リアムさんの言う通り、明日は戦闘に参加するべきではないです」


 そう小さな声でボソッと告げるのだった。

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