第8話 オーク探しに、異世界へ

 町を出て歩いて2時間が経った頃、蓮人とリーは目的地である森に着いていた。


「よし、これからはいつオークに出会うか分からない。気合入れて慎重に行くぞ」


「はい、蓮人さんは前をお願いします。私は後ろを警戒しますので」


 いつオークに出会っても対処出来るように隊列を組みながら、そのまま森の中をゆっくり進んで行く。














 「そりゃ!」


 蓮人がゴブリンに向かって切りかかり、一刀両断する。


「なんでこんなにゴブリンばかり出てくるんだ? 結構歩いたはずなのにまだオークに出会わないっておかしくないか?」


「はい、おかしいです。何か嫌な予感がします……」


 蓮人とリーが歩き始めてから討伐したゴブリンは二桁になろうとしていた。


「もう少し進んでも見つからないようなら帰った方がいいかもな。とりあえず今は進んでみよう」


 リーは無言で頷き、隊列を維持して歩き出す。

 しばらく歩いた後、蓮人はある違和感に気づく。


「……血の匂いがする」


 蓮人は立ち止まり、そう呟く。


「私は何も臭いませんが……モンスターの血の匂いですか?」


 リーは蓮人の横で立ち止まり、小声で話しかける。


「おそらくモンスターだろう。俺達以外にも冒険者が来ていて倒したモンスターの臭いなのかもな、とりあえず行ってみよう」


 蓮人はそう言って隊列を組みなおし、血の匂いのする方へ慎重に歩き出す。

近づけば近づく程、血の匂いが濃くなる。肉眼で見える位置にまで近づくと濃密な血の匂いが立ち込め、吐き気を催す程である。


「……おそらくオークだろうが、確認しないわけにはいかないよな」


 そう言って蓮人が後ろを振り向くと、リーは真っ青で吐きそうな顔をしていた。


「俺が見てくるから、少し離れた所で周囲の警戒をしていてくれ」


 蓮人が溜息交じりにそう言うと、リーはブンブンと音が聞こえそうなほど首を縦に振り、離れて杖を構え周囲を警戒し始める。

 蓮人は死体に近づき、確認し始めるが、おかしなところに気が付く。


「ほとんどの部位が残っていない? いや、剥ぎ取ったと考えるべきなのか。だが、それならこの肉の切断面はおかしい」


 オーガの死体は骨とその周りに雑に肉が汚く残っているだけなのである。それだけならまだ剥ぎ取りがあまり上手ではない人がした可能性もあるだろう。だが、今回は肉の断面が引きちぎられたり、噛み付かれた跡がある。冒険者であれば剥ぎ取りにはナイフを使うはずなので、どうやってもそんな跡が残ることは有り得ない。


(おそらくこれはモンスターの仕業だろうな。しかも、 周りにはオーク以外の血はない。オークとは格が違うモンスターの仕業の可能性が高い、か。危険だな)


「リー、ここは危険だ撤退するぞ」


 周囲を警戒しているリーのところに戻ってそう伝える。そのとき、奥の茂みがガサガサと動き、そこから3体のゴブリンが飛び出し、襲いかかってくる。


「危ない!」


 蓮人は瞬時に無属性魔法を発動し、刀を一閃。3体のゴブリンを纏めて斬る。


「オークが殺されるような場所でゴブリンが無事なはずがない。何が起こっているんだ?」


そこでリーははっと何かに気付いた。


「もしかして、ゴブリンキングですか……」


 蓮人は眉をひそめリーに尋ねる。


「ゴブリンキングってのは?」


「いわゆるゴブリンの王ですよ。全てのゴブリンの頂点に立つゴブリンです。ランクは……Bです。オーガを一方的に倒せてもおかしくありません」


 そんな話をしていると、少し離れたところから変な声が聞こえる。


「……行ってみるか。今は少しでも情報が欲しい。」


 2人は音を立てないよう、ゆっくり歩いて近づいて行く。すると目の前に信じられない光景が広がっていた。

ゴブリンが100体以上、ホブゴブリンが10体、ホブゴブリンよりも大きな体をしたゴブリンが1体居た。


「あのでっかいのって、やっぱりゴブリンキングか?」


「私も見たことはありませんが、恐らくそうでしょう。この軍団は最悪ですね。とりあえず撤退するべきでしょう」


「ああ、俺も同感だ。早く戻ってギルドに報告するべきだろう」


 小声でそんなやり取りをした後、また音を立てないようゆっくり静かに離れる。


 (昨日のご飯のときのフラグ、見事に回収だな)


 そんなことを考えながら、街へ急いで戻るのだった





「あ、お帰りなさい! どうでしたか?」


 2人が無事に帰ってきたことに安心しニッコリと笑って迎えるレノ。


「大変なことになった」


 蓮人とリーのただならぬ気配に、レノも真剣な顔になる。


「どうしたのですか」


「ゴブリンキングとその軍勢が森の中に居たのを発見した」


 レノは驚き、声も出ない。


「とりあえずギルドマスターに報告してきます。お二人はここでお待ちください」


 そう言ってギルドマスターの部屋に向かう。

 すぐに帰ってきたレノは、蓮人とリーに


「ギルドマスターから部屋に来いとのことです。私についてきてください」


 そのままカウンターの奥にある階段を登り、奥の部屋に入る。


「まあこっち来て座れや。詳しい話を聞こう」


 扉をしっかり閉め、言われた通りギルドマスターの対面に座る。


「ゴブリンキングが出たと言うのは本当か?」


「はい。俺達は森の奥でその軍勢を見てきました」


「規模は?」


「ゴブリンキングが1体、ホブゴブリンが10体、ゴブリンは100体以上だ」


ギルドマスターは難しい顔をして考え込む。


「おそらく、そいつらは繁殖が目当てだろう。ゴブリンは雌ならなんでも自分たちのガキをうませられるからな。放っておけば、この町が襲われるのも時間の問題か。ちっ、しゃーねぇ。レノ、緊急討伐依頼を出し、めぼしい冒険者達には声をかけろ。あたいも行くぞ」


「は、はい!」


 レノは急いで出ていく。


「あんたらはまだDランクだからこの緊急依頼は受けられねえ、これは決まりだからな。だが道中の道案内は必要だ。そこであんたらにはあたいからの個人依頼として道案内を頼むことになる。頼めるかい?」


 真剣な顔をしたギルドマスターがそう問いかける。


「ええ、勿論です。それと質問なんですが、依頼は道案内なのですが依頼者の身の安全を守るために戦うのも当然ですよね?」


 蓮人はニヤリと笑いながらギルドマスターに言う。


「はっはっは、これは面白いことを聞いた。いいだろう、だが死ぬんじゃねえぞ」


 心底愉快そうな声を上げながらギルドマスターそう返事を返すのだった。

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