第6話 ゴブリン討伐に、異世界へ

 「せい!」


 薄く白い光を纏っている蓮人は、刀を右手に持ち地面を蹴る。一瞬でゴブリン2体の前に肉薄するとそのままの勢いで2体同時に体を真っ二つに切り落とす。その切れ味はとんでもなく、滑らかな線で切れているのだった。 


「無属性魔法ってのはすごいもんだな、体がかなり軽いし力も全然入れていないのにあんな風に切れちまった」


 体から纏っていた光を消し、ゴブリンの討伐証明部位となる右耳を剥ぎ取りながらそう言う蓮人。


「身体強化特化の無属性魔法なんですから、そんなの当たり前ですよ。それよりもケガとかは無いですか? あるなら私の水魔法で治療しますけど」


「大丈夫だよ。水属性魔法は治療が出来るところが便利だよな」


 蓮人とリーが初めて出会ったあの場所で、自分の現在の力量を測りながらゴブリン討伐をしている2人である。


「よし、今度は火属性魔法を試してみるか」


 少し離れたところにいるゴブリンを標的にしてそう言う。


「魔法は術者の想像力によってどんな魔法を撃てるのかが決まるんだったな」


 蓮人は右手を前に突き出し、頭の中で直径20cm程の赤い火の玉を思い浮かべ、そのまま右手に魔力を集中させる。そうすると、右手の前に想像したのと同じ火の玉が生まれる。


「よし、ファイアボール!」


 その合図と同時に火の玉はゴブリンに向かって一直線に飛んで行き、そのまま直撃する。ゴブリンは避けることも出来ず、そのまま体を焼かれるのだった。


「火属性魔法の火力もとんでもないな。燃やし尽くして討伐証明が剥ぎ取れないっていう致命的な欠点があるけど」


「じゃあ次は私に任せてください。ウインドアロー!」


 リーは意気込んで、少し離れたところにいるゴブリンに向かって風の矢を3本作り出し、それを発射する。3本ともしっかり命中しゴブリンの体に3つの風穴をあけ、絶命させる。


「これなら大丈夫ですね!」


 魔法の威力に満足しながら頷いているリー。


「しかし、リーにそんなにも魔法の適正があったのなら、もっと早くに検査しておけば良かったのにな」


 何気なく言ってしまった蓮人の一言に、リーは一瞬固まり、それを取り繕うかのように


「えっ、ええ。本当私ってバカですね。あはは……」


 と言うのであった。


「ま、もう少し討伐していくか。今日も美味しいご飯食べたいしな」


 そう言ってまた近くのゴブリンを探すのであった。








 「よし、そろそろ帰るとしよう」


 日が落ちてきて、辺りがオレンジ色に染まってきていた。


「はい! 今日は何を食べましょう?」


「今日は肉の気分だな」


 そんな他愛もない話をしながら街に向かって歩いていく。

 そのとき、離れた所からなにかの群れがこちらに向かって来るのが見えた。


「なんだあれ? リー何かわかるか?」


 蓮人がリーの方を向くと少し震えながら


「……おそらくあれはホブゴブリンというゴブリンの上位種です。私達がゴブリンを狩りすぎたせいで怒っているのかもしれません」


 ホブゴブリン率いるゴブリンの群れはかなりの速さで、蓮人達のすぐ近くにまで迫ってきていた。


「逃げるのは無理か……。リー、ここで戦うぞ」


 蓮人は刀を抜いて構え、無属性魔法で自分の体を強化し薄く白い光を体に纏いながら言う。


「はい、私は魔法で周りのゴブリンを倒します。蓮人さんはホブゴブリンの相手をお願いします」


「了解。早速行くぞ! 俺がホブゴブリンのところへ行く道をあけてくれ」


 リーは道を開くため、魔法を唱える。


「ウインドアロー」


 今度は5本の風の矢が飛んでいき、ホブゴブリンの前にいるゴブリンに命中しそのまま倒れ、道が出来る。


「今です!」


 その言葉と同時に蓮人は走り出す。一瞬でホブゴブリンの前に移動し、そのままの勢いで刀を振り下ろす。その一刀で決着がつくかと思いきや、それは受け止められるのだった。


 (これはやばい!)


 蓮人は直感に従って後ろに跳んだ瞬間、元いた位置をホブゴブリンの剣が凪いでいたのだった。そのまま距離を取る蓮人。その間にもリーは風魔法でゴブリンを討伐していく。それを見たホブゴブリンは標的をリーに替え剣を上に振り上げ、切りかかろうとするがリーはそれに気づいていない。


「リー危ない!」


 リーは状況を把握し避けようとするが少し間に合わない。


「間に合えええええええ」


 蓮人は走り出す。その瞬間、蓮人の体からは今までとは比べ物にならない程強く白い光が溢れ出す。


 (なんだ、体が宙に浮けそうなくらい軽いぞ。これなら間に合う!)


 スピードを上げた蓮人は間に割り込みホブゴブリンが振り下ろす剣を受け止めはじき返し、お腹を思い切り遠くへ蹴り飛ばす。


「大丈夫か? ちょっと待ってろよ、今倒してくるからな」


 そう言って蓮人は吹き飛んでいったホブゴブリンの元へ駆け出し、頭に向かって刀を振り下ろす。ホブゴブリンは剣で受け止めるも意味はなく、剣ごとそのまま体を真っ二つに切るのだった。

 それを見た残りのゴブリンは走って逃げだす。追うことはせずそのまま逃がす蓮人とリー。正しくは追う元気がないというべきなのかもしれないが。


 「……終わったな。疲れた、早く帰ろう」


 ホブゴブリンの討伐証明部位を剥ぎ取り、2人は街に帰るのだった。

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