第5話 魔法のために、異世界へ

「蓮人さん、朝ですよ! 起きてください!」


 (んー、なんだここ……。 はっ、そうだ俺は異世界に来たんだった)


 目をしょぼつかせながらも上半身を起こす蓮人。


「もうっ、遅いですよ。早く朝ごはんを食べに行きましょう!」


 少しむくれながらも上機嫌なリーは、もう部屋を出て階段を降りて行った。


 (そうか、昨日あの後宿屋に泊ったんだっけ。それと朝市に出かけて掘り出し物と魔法適正の検査のために魔法会館へ行くんだったな)


 魔法について思い出した蓮人はすぐにシャキッとしてリーの後を追いかけ、朝市に出発するのであった。






「ではまず魔法適正の検査……の前に朝ご飯にしましょう。こっちに美味しいパンを売っているお店があるんです」


 (昨日の夜ご飯もうまかったし、パンもどんなのか期待が高まるな)


 異世界のパンの味に期待しながらリーについて行く。


「こっ、これは…… 食パンだ。こっちにもあるんだな」


「この上に目玉焼きを乗せて食べるのが大人気なんですよ」


 わくわくした顔でそう話しながら、2人分を買ったリー。


「では食べながら、魔法会館に向かいましょう!」


 (いよいよだ、楽しみだな。魔法適正がありますように)


 そこで蓮人はふと疑問に思う。


「そういえば魔法ってどんなのがあるんだ?」


「では、歩きながら魔法の種類について説明しますね。

まず魔法には大まかには火・水・風・光・闇・無の6つの属性があります。火は攻撃魔法、水は回復魔法、風は援護魔法、光は浄化魔法、闇は状態異常魔法を得意としています。無属性魔法は少し特殊で、自身の身体強化に使うことの出来る魔法です。

なので職業的には無属性魔法適正を持っていれば剣士、それ以外ならば魔法使い、といったところですね。」


「なるほどなるほど」


よく分かったと頷く俺を見て、満足げな笑みを浮かべるリー。


「さ、早く行きましょう!」


 リーは蓮人の手を取ってグイグイ引っ張って行く。


「そういえばリーは剣を使ってるってことは無属性魔法の適正があったってことなの?」


 それを聞いた瞬間、リーの足が止まる。


「あの……お恥かしながら、まだ適性検査を受けたことがないんです。憧れて剣を使っていただけで……。ですが昨日のような事があったので、私も検査してもらおうと思っているのです……」


 顔を真っ赤にしてうつむく。

思わず蓮人は笑ってしまうが、それをごまかすように今度は蓮人がリーの手を取って歩き出す。






「では、この石版に手を触れてみてください」


 魔法会館の職員に魔法適正検査の申し込みをすると、そのまま二人は別々の部屋に通され、それぞれ30cm四方の石版を渡される。


「この石版の真ん中に手をあてて魔力を流してください。そうすれば石版があなたの適正に合わせて発光します。また、その光が強ければ強い程その魔法への適正が高いということになります。では、さっそくどうぞ」


 職員は早口でまくしたて、蓮人に早くするように促し、そのまま流されるがままに右手を石版の中央に載せる。


 (……魔力ってどう流すんだ? とりあえず適当に力込めてみるか)


 その瞬間、石版からは目を開けていられないほどの赤と真っ白な光が溢れ出す。

余りの眩しさに蓮人は石版を取り落とすとその光は収まる。

 蓮人と職員は無言で目を合わせる。次の瞬間、職員は蓮人の肩につかみかかり


「な、なんなんですかあなた! なんでそんなにとんでもない火と無属性の適正を持っているんですか! あなた何者なんですか! ここの職員として働いてきた中で1番すごい適正の持ち主ですよ!」


 またも職員は興奮しながら早口でまくしたて来るが


「何者と言われましても、ただの人間ですよ。とりあえずありがとうございました」


 グイグイくる職員を適当にいなしながら部屋を出て


 (火と無属性魔法の適正があって良かった、女神様ありがとうございます)


 心の中で女神様に祈りと感謝を捧げてからリーのところへ向かう。

 リーは先に終わっていたらしく、魔法会館の入り口で待っていた。


 リーは蓮人の顔を見つけた瞬間、にっこりと笑みを浮かべながら駆け寄って来る。


「蓮人さん、聞いてください! 私適性が水と風と光の3つもあったんです! 3つの適正を持った人はここ数年ぶりの快挙らしいのです!」


 ふんすと鼻息が聞こえてきそうなくらい興奮しているリーは言う。


「おお、すごいじゃないか。俺は火と無の2つだったよ」


「蓮人さんの話なら、もう魔法会館の中で噂になってますよ。部屋の外まで光が溢れ出した人なんて今までで初だそうですもん」


 (どうりで色々な人がこっちをチラチラ見ているわけだ)


 行きかう人達はおろか、職員ですらこちらを見てこそこそ話をしている。


「かなり目立っちゃったな。まあいいか、じゃ今度は装備を揃えに行こうぜ」


「はい!」






 そのまま魔法会館を出て、武器屋へと向かう2人。その道すがら、あまり人通りのない道で、フードを目深にかぶり客引きなど興味がないかのようにただ座っているだけの店員が一人だけの露店を見つける。その店には刀が1本だけしか並べられていないのだが、やけに蓮人の興味を引いたのだった。


「あの、この刀、いくらですか?」


 蓮人は気づけばその露天商に話しかけているのだった。

露天商はそんな蓮人を値踏みをするように見て、少し驚いた顔をする。


「お前ならこの刀を託すことが出来そうだな……」


 その露天商はボソッと呟いた後


「お前にその刀を託そう。使いこなしてみせるんだな」


 そう言ってさっと片づけて、人通りの多い道に消えていくのだった。

 

 リーはそのまま武器屋に行って杖を、蓮人も皮鎧を買った。

 

 「じゃあ、今度はギルドに依頼を受けに行きましょう! 今日のご飯代を稼がないと……」


 二人は少し暗い雰囲気をまとったままギルドへと向かうのであった。

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