第3話 ギルドのために、異世界へ

 「あっ、ゴブリンの討伐証明となる部位を取らないと! 私取ってきますので少し待っててください」


 街へ歩き出してすぐにリーが大声を上げ、たたたっと駆け出す。


「おい、待てよ。1人じゃ危ないぞ!」


 蓮人もリーを追いかけ、ふと疑問に思ったことを聞く。


「ゴブリンの討伐証明の部位なんて取ってどうするんだ?」


「冒険者ギルドに買い取ってもらうのです。7匹のゴブリンの討伐証明があれば今日は少し豪華なご飯が食べられますよ!」


「冒険者ギルドなんてあるのか! 男の夢が詰まってるじゃないか」


 蓮人は興奮しながら声を上げる。


「高橋蓮人さんもギルドに登録しておくべきですよ。ギルドカードは街に入るときの身分証明書にもなるので」


「じゃあ街に着いたら先にギルドに行かないとな……って、今身分証明書って言った?」


「ええ、それが何か?」


 首をかしげて蓮人に聞き返す。


「俺女神様に身分証明書になるものなんて何も貰ってないんだけどそれで街に入れるたりする……?」


 はっと息をのむリー。


「無理かもしれな……いえ、大丈夫です、死ぬほど頼み込めば許してもらえるはずです!」


 と、開き直り


「それならば早く街に行かなければ! 行きますよ、高橋蓮人さん」


 と街に向かって走り出す。


「待てよー、後俺のことは蓮人って呼んでくれ」

 

苦笑しながらリーにそう伝える。


「はい、分かりました。蓮人さん!」


 リーは蓮人に向かって微笑む。


 (あー、本当にやばいわ、可愛いが過ぎる)








 「「お願いします、入れてください!」」


 蓮人とリーは門の前に立っている衛兵に向かって90度のお辞儀をして頼み込んでいた。


「そんなに頼まれても規則は規則なんだ。身分証明書が無ければ2000ゴールドと衛兵3人以上の面接がいるんだよ。今日はもう遅く、衛兵は今二人しかいなくて他は皆帰っちまった。だからまた明日出直してくれや」


 衛兵は頭を掻きながら、困ったように言う。


 (2000ゴールドはゴブリンの討伐証明で何とかなっても、さすがに衛兵の人数はどうにも出来ないだろうし諦めるしかないか)


「そんな決まりがあるなら仕方ないか…… リーは街に入って休んでくれよ。俺は明日の朝まで野宿することにするよ」


「いえ、命の恩人を一人残して街に入るなんて出来ません。私も野宿することにします」


 絶対に譲りませんと言いたげに、ほっぺを膨らませているリー。


 (あー、やっぱり可愛いわ)


 なんて思っていると、後ろから


「この二人を仲に入れてやりな、あたいが責任を持つよ」


 と衛兵に声がかかる。

 蓮人とリーが驚いて後ろを振り向くと、身長がかなり高くスタイルがいい勝気な目をした女性が腕を組んでを見ていた。


「あんたら訳ありなんだろう? あたいが特別に許可してやる」


「あなたはどちらさ……」


「ギルドマスター! ありがとうございます!」


 蓮人の隣でリーがすごい勢いでお辞儀をしている。


「いいってことよ、それよりもあんたら付いてきな。坊主の冒険者登録もこのまましちまうよ」


 そう言って、先頭に立ってずんずん歩いていく。

 蓮人とリーは動けずじっとしていると


「あんたらこのまま野宿すんのかい! 早くしないと置いてっちまうよ!」


 とギルドマスターに怒鳴られた。


「「はっ、はーい、今行きます」


 蓮人とリーはその後ろ姿を走って追いかける。









「ほら、ここが冒険者ギルドだ。どうだ、すごいだろう?」


 蓮人は人の多さと活気の良さに驚いて辺りをきょろきょろ見回し、それを見ているリーとギルドマスターは面白いものを見るように笑っている。


「こっちにおいで、冒険者登録するよ」


 ギルドマスターのその1声で我に返った蓮人は、はいと返事して登録作業に入る。

 登録作業はカードに名前を書き、血を一滴垂らすだけで終わりだ。

 ちなみにランク制度というものがギルドにはあり、1番下がEランク、そのままD、C、B、Aと上がっていき、1番上はSランクとなっている。蓮人は勿論Eランクである。


「さあ、ここからが重要な話だよ。耳をかっぽじってよく聞きな」


 ギルドマスターの目つきが真剣なものに変わり、蓮人は気を引き締める。


「冒険者ってのは街の平和を守るため、日々死と隣り合わせでモンスターと戦っているんだ。命を懸けてな、あんたにも心辺りはあるだろう?」


 そう言われて今日の出来事を思い出す。


 (確かに、リーは俺が助けに行かなければ間違いなく死んでいただろう)


「まあ何が言いたいっていうとだな、覚悟を決めろってことだ。じゃこれで話は終わりだ、じゃーな」


 ギルドマスターは後ろに手を振りながらそのままギルドの階段を上り、奥の部屋に入っていった。


 (冒険者は確かに常に命の危険のある仕事だな、俺もしっかり気を付けないとな。まあそれはそれで置いといて……)


「ゴブリンの討伐証明売って、パーッと打ち上げしますか!」


「はい! そうしましょう。売却用カウンターはあちらですよ」


 蓮人はこの世界にはどんな美味しいものがあるのかを楽しみにしながらカウンターに向かうのだった。




 余談だが、討伐証明は4800ゴールドで売れた。街に入るときの2000ゴールドはギルドマスターが払っていてくれたらしく、蓮人は心の中で深く感謝を捧げるのであった。

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