第2話 出会いのために、異世界へ

 「誰か……助けて……」


 ボロボロの剣と皮鎧を装備しているゴブリン7匹に囲まれている1人の少女。装備はゴブリンよりはマシといった程度の剣と皮鎧である。

 そんな彼女に剣を振りかぶりながら2匹のゴブリンが突撃する。

 1匹目のゴブリンが振り下ろした剣を避けることに成功するが


 (ダメッ、2匹目は避けられない……)


 2匹目のゴブリンの切り上げてくる剣に必死に合わせるが、少女の力ではゴブリンに敵うことなく、剣を弾き飛ばされ、そのまま尻餅をついてしまう。


「ギャギャギャギャギャギャ」


 ゴブリンが下卑た笑いを浮かべながら、7匹で囲ってじわじわと少女に近づいていく。


「助けて……」


 少女がそう呟いた瞬間、辺りを白く眩い光が包み込む。その光が収まると、少女の隣にはある男が立っていた。

その男は少女に向かって、微笑みながら


「俺は高橋蓮人だ。助けに来たぞ、リー」


 と話しかける。

そう聞いた瞬間、リーの目から涙が溢れ出す。


「おいおい……どうしたらいいんだ?」


 少し困りながらリーの頭に手をおいて撫でると同時に周囲の状況を確認する。


 (囲んでいるゴブリンは7匹、装備は全てボロボロの剣と皮鎧か。俺のことなめてるのか余裕綽々だな、これならいける!)


「リー、ちょっと剣を借りるぞ」


 そう言うやいなやとんでもない速さでリーの弾き飛ばされた剣を拾い、一番近いゴブリンに切りかかる。


「ギャギャアア」


 ゴブリンは蓮人の振るった剣に合わせることも出来ず、皮鎧などないかのように上半身を一刀両断する。

 残っている6体のゴブリンはそんな蓮人を見て少し警戒し蓮人に標的を定めるが、1匹のゴブリンの視線がリーに向かう。その瞬間を見逃さず、蓮人は切りかかる。

またもゴブリンは反応することも出来ず、あっさりと切り捨てられ、残り5匹の間に動揺が走るが


「グギャギャギャギャァァァァ」


ゴブリンが仲間2人をやられたことに怒り、目が血走り、舐めていた雰囲気が無くなった。


  (これはまずいな……俺だけじゃなくリーまで危ないことになる、どうする俺、考えろ)


 考える間をくれる訳もなく、残った5匹が一斉に蓮人に襲いかかる。


 (こりゃやるしかないか……やってやる!)


 ここで蓮人が負けると蓮人だけでなく、リーも殺されてしまう。わざわざ助けに来たのに失敗してしまっては死んでも死にきれない。蓮人は覚悟を決めた


「はあああああああ!」


気合を入れて力をこめた瞬間、体から白い光が溢れ出す。


「なんだこれ? 力が……溢れ出してくる! これならいける!」


ゴブリンの方が先に行動し始めたのにも関わらず、蓮人の剣の方が速く正確な剣さばきである。

1振りで1匹のゴブリンの喉笛を掻っ切り、返す刀でもう1匹、さらに返してもう1匹倒す。

その光景を見た残り2匹のゴブリンは恐怖を感じたのか、剣を捨て蓮人に背を向けて走り出す。だが、そんなゴブリンを逃がす訳もなく蓮人は1突きで最後の残り2匹を一気に串刺しにする。


「ふぅ……終わったな」


 剣を抜きながら、ほっと一息つき周囲の確認をすると、泣いていたはずのリーが目を見開き、心底驚いた顔で蓮人を見ていた。


「あの……リー?」


「はっ、はい! リーでございます! ……ってなぜ私の名前を知っているのですか?」 


 きょとんとした目で首をかしげる。


(こいつ……よく見るとかなり可愛い……)


 パッチリとした大きな目に、黒髪のボブ、さらにふっくらとした唇。蓮人の好みのタイプにドストライクだった。


「あの……私何か失礼なことでもしましたか……?」


 瞳をうるうるさせながら上目遣いで蓮人を見上げる。というか蓮人の目に前にまで近づいてきている。


「あっ、いやいや何でもないよ。後、剣も返すよ。それより君の名前を知っている理由なんだけど……」


 ここで蓮人はリーになんと説明すれば良いか迷う。


 (声が聞こえて探したら女神様のところに着いて、そのままここに転移させてもらいました、なんで俺この世界の人じゃないです……なんて言って頭おかしがられないか?)


 「どうしましたか?」


 (……まあいっか、言っちゃえ!)


「俺は君の助けを呼ぶ声を聞いて、この世界の女神様に転移させてもらったんだ。だから君の名前は女神様から聞いたんだよ」


 簡潔に事情を説明する。


「……てことは高橋蓮人さんはアルフェウムの人間ではないということですか? しかも女神様とお知り合いということなのですか……?」


リーは一瞬固まり信じられないというような目で蓮人を見ている。


 (はい、頭おかしい子と思われたやめとけばよかった)


 蓮人はそう思い肩を落としながらも、そうだよと答える。


「なるほど、そうだったのですね! だから高橋蓮人さんが現れたときにあの白く眩い光が発生したのですね」


 うんうんと頷きながら納得顔のリー。


 (あれ? 頭おかしいと思われていない…… 女神様、ありがとうございます)


 心の中で女神様にお祈りと感謝を捧げる。


「遅くなって申し訳ありませんが、助けていただいて本当にありがとうございました! もし嫌でなければ、一緒に街に戻って食事でもどうですか、お話したいこともたくさんありますので……」


 と、またもうるうるさせた両目で蓮人を見上げる。


 (これには絶対勝てないわ)


「俺もこの世界のこと色々知りたいし、お願いするよ」


 リーは満面の笑みを浮かべて


「はい! 喜んで!」


 と言う。


 (あー、可愛すぎるよ)


 そんなことを思いながら二人は町に向かって歩き出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る