勇気をもって、異世界へ
レイン
第1話 助けるために、異世界へ
「お疲れさまでしたー、先にあがりまーす」
と言って眠そうな目をこすりながらコンビニから出てくる少年。
彼の名前は高橋蓮人。とある事情でバイトをしながら一人暮らしをしている高校生だ。
「今日のあの客は本当なんだったんだよ……」
と蓮人が応対したクレーマーを思い浮かべながらとぼとぼ歩いて家に向かっていた時
「誰か……助けて……」
そんな消え入りそうな女の子の声がふと耳に入った。
「おい、どうした!」
蓮人は驚いて辺りを見渡すが誰もいない。
「空耳、だよな……? それにしてはリアルだな……」
そのまま歩き出そうとするが
「誰か……」
さっきよりも弱弱しくなった声が聞こえた。その瞬間、蓮人は走り出す。
いつもの帰り道をそれ、裏路地の狭い道をごみ箱や野良猫たちを気にも留めず、全力で駆けていく。周りには誰も居らず、助けを呼ぶ声にも全く聞き覚えがないにも関わらず、足が勝手に駆けて行くのだった。
そのまま裏路地の行き止まりに着いたが、誰もいない。だが、蓮人はここが目的地であることを直感で感じ取っていた。
「おい! どこだ! 助けに来たぞ!」
そう叫んだ瞬間、白く眩い光が蓮人を包み込む。
「なんだこれ! うわああああああ……」
その光が収まった裏路地には誰の姿も無かったのだった。
「目が、目がああああああ…… なんともないわ」
「大丈夫ですか? 高橋蓮人さん」
「え? あんた誰? なんで俺の名前知ってんの? てかここどこ? それよりも助けてって言ってたあの女の子は?」
蓮人の目の前にいるのはツヤツヤな金髪を腰まで伸ばした、綺麗な女性だった。
「私は女神です。神様ならばあなたの名前を知っていても不思議ではないでしょう? そしてここは神の間です。下界の人たちには天国と言った方が分かりやすいでしょうか」
「え、女神様なの……? 確かにかなり美人だけど…… っていうか天国ってことは俺死んだのか」
蓮人は少しショックを受けながらもその事実を受け止め、まあいいかと呟く。
「いえ、蓮人さんは私の客人としてここに呼んだだけなので死んでいませんよ、安心してください」
そうなんだと納得して疑問に思ったことを尋ねる。
「俺を客人として? どういうことだ?」
「その件について、お話しましょう」
女神のその言葉に蓮人は気を引き締める。
「まず、あの声の少女はリーと言います。現在彼女はあるモンスターに襲われており、かなり危険な状態です。」
「待って、モンスター? 日本にモンスターなんていないよ?」
何を言ってるんだと言いたげな顔をしている蓮人。
「確かに日本にはモンスターは存在しません。ですが、リーのいる世界はアルフェウムといいます。この世界にはモンスターがありふれており、リーは今そのモンスターに襲われ、囲まれています」
「おい! それってかなりやばいんじゃないか、早く助けないと!」
目に見えて焦り出す蓮人に対し、女神は人を落ち着かせる不思議な微笑みを浮かべながら
「安心してください、今向こうの世界の時間は私が止めているので大丈夫です。なので落ち着いて話を聞いてください」
と伝える。
「そうか、分かった。だが、リーを助けるにはどうしたらいい?」
と、蓮人は落ち着きを取り戻しながら冷静に問いかける。
「……1つだけ彼女を助ける方法があります。蓮人さん、あなたがあの世界……アルフェウムに行き直接助けるしかありません」
「分かった。なら早く行かせてくれ」
「最後まで話を聞いてください。重要な話はまだ終わっていません」
「なんだよ、時間を女神様が止めてるとしても早くいってやらないといけ……」
「アルフェウムに行ったが最後、日本に帰ってくることはできません」
蓮人の返答を待たず、遮るように言った言葉はかなり重いものだった。
「……はい?」
ぽかんとした顔をした蓮人。
「リーを助けたらまた日本に返してくれるんじゃないの……?」
「それはできないのです。元より、人間を他の世界に送り込むことすら認められていないのですが、今回は特例です」
申し訳なさそうに目を伏せながらそう伝える女神。
「そっか。1度向こうに行くともう帰れないのか……。まあでもそれでもいいや。日本に未練があるわけでもないし」
少し悩みながらもそう言う蓮人。
「あなたはえらく簡単に物事を受け入れられるのですね」
「……ま、色々あったんだよ」
蓮人はどこか何かを悟ったような顔をしている。その表情は女神様にはどこか不安定なようなように見えた。
「そうですか。蓮人さんが決めたことであるならば私は何も言いません」
「あ、でも今俺がリーのところに行って助けてあげられるのか? 俺ってただの高校生で特に力強かったりするわけでもないけど……」
と不安げな顔を浮かべている蓮人に向って、女神は微笑みながら
「大丈夫ですよ、あなたには私からある能力を与えるので、その力があれば負けることはないでしょう。言語についても通じるようにしておくので安心してください」
「そっか、ありがとう。なら大丈夫だな」
と蓮人は笑みを浮かべる。
「まだ何か聞いておきたいことはありますか?」
少し考えるが
「……特にないかな」
「では早速転移させたいと思います」
そう答えると次の行動は早かった。向こうの世界のことを教えて貰うことなく転移を始めることになる。
女神はニッコリと笑い手を蓮人の胸に当て、こう伝える。
「高橋蓮人さん、あなたのこれからの旅路に幸多からんことを」
その瞬間、また眩い光が蓮人を包み込む。
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