第84話 伝えられなかった秘めたる思い

「仲が良いことで」


「どこがだ」


 カフェで一人、飯を食べているとそいつはやってくる。馴れ馴れしく話しかけてくる様子には遠慮というものがない。俺のことを全て知っている、理解しているといった具合でからかってくるのだ。


 こいつを突き放すのにも面倒になり、適当にあしらえば周りからは仲良くやっているように見えるらしい。そんな現状を俺は理解したくもなかったが。


「それで考えてみてくれたかな?」


「何をだ?」


「キャビアのこと」


 キャビアは俺の相棒の名前だ。相棒がまだ烏の形を保っていたころからの付き合いだから、秘密にしたくても今更どうしようもない。


「断ると言っただろ」


「気が変わってないかなと」


 キャビアがいるのは俺の心の中。それは亡くなったというわけではなく、一体になってしまったというのが正しいだろう。他の烏も巻き込んだうえで、俺と相棒の魂は混じり合ってしまった。


 こいつはそれを元に戻せるかもしれないと言う。魂の研究は危険が多く、賢者によって禁止されているというのに。そう言いつつも、研究をしている奴を一人知ってはいるが……。


「相棒が元に戻る絶対的保証は?」


「……ないかな」


「答えは変わらない」


 これは自分が引き起こしたこと。その償いをするのは、当たり前のことだろう。どうせこいつのことだから、きっと他の命なんて考慮に入れてやいない。そんな奴の言葉に逃げることはできない。


「もう十分、苦しんだと思うのだけど」


「お前には分からないさ」


 そうだ、分かるわけがない。どんなに罪の意識があったとしても、結局は相棒を失いたくないだけなんだ。失ってしまうくらいなら、このまま一緒にいた方がいい。


「どうしたら分かってあげられるのかな」


 こんなにもしおらしくなるとは、珍しいこともあるもんだ。


「一生無理だろうな」


 俺は鼻で笑うように返事した。のんきにお友達になりたいとほざいては、俺のためなのかカフェの代金をツケも含めて払ってくれる。こんな苦労も知らないような奴に、理解なんてできるはずがない。理解なんてされたくなかった。

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