原初の夢

第83話 僕のいない工房

 今日もまた一日が始まる。お店の中に並んだ子どもたちの様子を確認して、いつもと変わりない輝きに安心する。かつては誰にも認められなかった私の魔術。それが今は、こうして価値を認められている。


 エトワールは人を惹きつける。私もその魅力に取りつかれた一人で、妄信的にここまで歩むことになった。誰もこの魅力には逆らえない。それが導いた結果が今の現状で、私は満足していると思いたかった。


 否定された過去は無くならない。こんなに前向きな状況まで歩いて来られたのに、その事実はずっと私にしがみついたまま。それを忘れたくて、これ以上の評価はおこがましいと思いながらも、まだ足りないとより良いエトワールを生み出すことに専念しようとした。ただこの心で燻っている火種は、いつも燃焼不良を起こす。


「落ち着こう」


 こういう時は初心に帰るのが一番だった。工房で紅茶を一杯用意して、頭の中をきれいさっぱり空にする。初めて出会ったエトワールの結晶を手元に置いて。


 拳より少し小さいくらいの石。そこにへばりついていた小さな結晶。今でもその美しさは変わらない。この感動を伝えたくて、より広めたくて研究を始めた。今進んでいる道は違っても、この気持ちは変わらない。


 そろそろお店の準備をしなければ。小さな輝きを棚へ戻したとき、くすんだ白色の結晶が目に入った。


「こんなの作ったっけ?」


 その歪な形では商品にはならないし、何よりもエトワールの良さである複雑な輝きが打ち消されてしまっていた。研究の途中でできたものだとしても、私の記憶に残っていないはずがない。自ら存在を主張しているかのような、その違和感を疑問に思いながらも、私は結晶を置いて立ち上がった。


 今はお店が優先だ。髪を結い上げ、声を変える。鏡の前で身だしなみを確認して、完璧な男へと変身した私は表に出た。


 今日もアリソン工房、開店だ。

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