第17話🌸電話の向こう

「星野?そこに高田ってやつが居るんだろ?黙って聞いて欲しい。さっき高田ってやつから俺に電話があった。星野の電話から掛けてるって言ってた。強引に俺たちに別れろって言ってきた。俺と一緒に居ても星野にはメリットがないって言われたよ。確かに俺は星野の仕事をサポート出来ない。でも俺は星野と一緒に居ると心が和む。星野もそうだって思ってる。だから、戻って来て欲しい。高田は星野を女優として成功させるって言ったが、俺は正直成功なんてしなくてもいいと思ってる。星野が心地良い居場所を見つけてくれればそれでいいし、その居場所が俺の側であって欲しいと思ってる。今、何処に居るんだ?教えてくれれば迎えに行く。」

森下は一気に告げた。ひかりは森下の優しさが心地良くて、涙が出てきた。電話を持ちながら何も言えないままのひかりを、高田はそっと抱きしめた。思わず電話を落としてしまったひかりは慌てて電話を取ろうとしたが、高田はまだ切れていない電話をひかりから遠ざけそのままひかりをベッドへと倒し、自分もその上から覆い被さった。

「高田さん!やめてください!」

ひかりは必死に抵抗した。その声は当然森下にも聞こえていた。

「星野!おい!星野!」

森下は大声で叫んだが、当然ひかりには森下の声は届かなかった。高田は、森下が聞いているのを楽しむかのようにひかりを愛撫した。ひかりは必死で声を出さないようにしたが、抵抗するたびに高田は、

「レイカ・・・キレイだよ。こんなキレイな肌、見たことない。」

などと、わざと森下を挑発した。電話の向こうの森下の動揺を楽しむように・・・

「高田さん!お願いです!やめて・・・」

ひかりの言葉をキスで遮り、結果的にひかりの喘ぎ声が森下に届くように仕向け、状況を楽しんだ。ひかりは泣きながら抵抗した。しかし、高田の力は半端じゃなかった。経験不足のひかりにとっては何をしても無駄だったのだ。

 森下は受話器の向こうから聞こえる声だけで想像を膨らませていた。ひかりは抵抗している様子だと言う事は分かったが、時折聞こえるひかりの吐息の様な声が妙に冷静さを失わせていた。

(もしかしたら抵抗しながら感じてるのか?)

などと妄想が頭を支配していた。森下が一人妄想に支配されている間もひかりは必死に抵抗を続けていた。しかし高田の暴走も止まらなかった。高田はひかりを抱きしめながらスカートを捲くり上げ下着の中へと手を入れ、自分の指をひかりの中へと入れたり出したりを繰り返していた。ひかりは抵抗しながらも感じている自分に気付いた。しかし森下が電話を切っていなければ、この状況はすべて森下に伝わっている・・・と言う事も知っていた。必死に声を出さないようにもがいた。高田はひかりの行動に気付いたのか、一度手を抜きひかりのスマホを取りにベッドから起き上がった。そのすきにひかりはベッドから離れたが、スマホを持ちながら近付いてきた高田の異様な雰囲気に一瞬身体が凍った。

「もしもし?これから素敵なショーを聞かせるよ。レイカにふさわしいのが誰なのか、しっかり聞いていろよ。」

高田は森下に向かってそう言うと、電話をベッドの枕元に置きひかりを強引にベッドに引き戻すとすぐさまひかりを抱きしめ衣服を脱がせた。

「やめて!高田さん!お願い!やめてーーーー!」

ひかりは、すぐ側にあるスマホを切ろうと必死になったが、高田に阻止され衣服も脱がされ事もあろうか高田のセックスに感じている自分を森下にさらけ出すことになってしまった。森下はひかりの喘ぎ声を脱力感で聞いていた。しかし電話を切る事も出来ず、事の一部始終を想像と共に聞き入っていた。高田の企みに森下も、ひかりもハマってしまったのだった。


 ことが済み、ひかりはベッドの上でまるで抜け殻のように横になっていた。その姿を見ながら高田はひかりのスマホを取り、森下に向かって言った。

「どんな気分だい?自分の彼女が他の男に感じてる声を聞くのは。」

森下は、言葉が浮かんで来ないままだった。高田は続けた。

「君にレイカをこれだけ満足させられる自信があるかい?恐らくは無理だろうな。黙って身を引くのがレイカの為だとは思わないか?明日、レイカはウチの事務所と契約を結ぶ。仕事もしっかりと出来るだろう。俺は側でレイカをサポートしていく。分かったらレイカを忘れるんだな。」

高田の言葉をひかりはぼんやりと聞いていた。しかし、それを拒否する気力が残っていなかったのだ。森下に、[誤解だ]と伝えたい気持ちはあるのに、身体が動かないし声も出なかった。ひかりはベッドに横たわりながら涙が止まらなかった。そして、森下もまた、ひかりの気持ちを察する事も出来ず言葉が出なかった。ただ一人冷静なのは高田で、森下に対して

「じゃあ、少し休むから電話を切るよ。たっぷり想像出来ただろ?レイカのあんな声、聞いたことなかったんじゃないか?感謝してくれよな。」

と言い放つと電話を切った。森下は、切れた電話を持ったまま何も出来ずに佇んでいた。


 翌日、ひかりは高田と共に高田の事務所を訪れた。【マリア】を演じていた時のひかりの気迫は微塵もない、まるで生気を吸い取られたかのようなひかりに事務所の社長は困惑した。事務所の説明をしても全く反応がないひかりを見て社長は、

「高田、音無さんはどうしたんだ?」

と尋ねた。高田は、

「ここと契約するに当たって、昨夜男と別れさせたんですよ。今は脱力感で一杯ですが、レイカならすぐに自分を取り戻せます。傷心・・・と言ったところでしょうね。大丈夫ですよ。俺もサポートしますから。」

と平然と告げた。高田の言葉に社長も一応納得をし、契約書にサインを求めた。ひかりは言われるままにサインをし、契約が成立した。

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