第2話🌸再会
同窓会が終わり数日が過ぎた。ひかりはまたいつもの生活に戻っていた。
朝から晩までスタジオに缶詰になり、ひかりは仕事をしていた。ひかりの仕事は、声優だった。同窓会の日も夕方から収録があったのだ。1日オフを申請していたのだが、事務所から許可が出なかった為、居られるギリギリの時間で帰らなくてはいけなくなったのだった。
収録が終わり、帰り際スマホの電源を入れると、LINEが入っていた。森下からだった。
〈やっほぉ~。森下からの初LINEだよぉ~〉
それだけだったが、何故かひかりはとても嬉しかった。早速返信しようと思ったが、時間を見て躊躇した。時間は既に夜中の2時だったのだ。仕方なく諦めた。
翌朝、6時にまたLINEの着信音が鳴った。ひかりは寝たばかりだったが、待機画面に森下の名前が見え、LINEを開いた。
〈おはよう!今日、東京に行く用事があるんだけど、時間があったら逢わないか?同窓会の写真が出来てるんだ。って言っても東京って広いから星野が何処に居るのか分からないけど(笑)俺は、渋谷駅の近くにある会社で研修があって、それに午前中参加したら午後から時間が空くんだけど。良かったら返事ください。〉
ひかりは、眠い目をこすりながら返信をした。
〈おはよう。昨日は、夜中の2時まで仕事だったので返信出来なくてゴメンね。今日は仕事が夜からなので、大丈夫だよ。渋谷ならウチからも近いから。研修が終わったら連絡ください。渋谷駅までウチから歩いて10分ほどだからすぐ行けるよ。〉
森下はすぐに返信をしてきた。
〈え?渋谷に住んでるの?ラッキー♪研修は昼前には終わるらしいから、昼飯一緒に食おうか?〉
ひかりも返信をした。
〈了解。連絡待ってるね。〉
送信が終わると、さっきまでの眠気がどこかに飛んで行ったように元気になったひかりは、すぐに起き上がり1日をスタートさせた。普段の生活では考えられない時間からの行動開始だ。
シャワーを浴び、洋服を選んで・・・
と、まるでデートでもするかのように心が弾んでいた。それもそのはず。ひかりは、事務所から交際禁止令が出され、いまだかつてデートと言うものをした事がなかったのだ。
「今日は、デートじゃないもんね。同級生と逢うだけだもんね。大丈夫だよね?」
自分に言い聞かせるように、声に出し納得していた。
実は、ひかりは【音無レイカ】の芸名で声優としてはアイドル的存在の売れっ子だったのだ。ひかりが声を担当しているアニメのキャラクターコスチュームに身を包み、素顔がほとんど分からないながらもファン層は幅広かった。それゆえ事務所も恋愛に関しては、うるさく言うのだった。ひかりも忠実に事務所の言いつけを守り続け、今まで一度もスキャンダルを報じられた事はなかった。今回だって、大丈夫!ひかりは自信を持ってそう思った。素顔のひかりなど、ほとんどバレていないのだから。
昼過ぎになり、LINEが鳴った。
森下からだった。
〈今終わったよ。これから渋谷駅に向かいます。星野は出られるかな?〉
ひかりは、すぐに返信をした。
〈了解!今から出ます。〉
そして、渋谷駅へと向かった。駅が見えて来ると、さすがに人ごみの中から森下を探すのは大変だったが、それでもキョロキョロと探してみた。やはり見つけられない。仕方がないので、電話を掛けてみた。
「もしもし?星野?どうした?」
森下の声と一緒に雑音とも取れる人ごみの音も聞こえてきた。
「もう渋谷駅、見えてるんだけどどの辺に居る?ここからじゃ見つけられなくて・・・」
ひかりは、探しながら尋ねた。
「えっとね・・・犬の銅像あるじゃん。ハチ公だっけ?アレのお尻の方側に居る。」
森下の説明に(どうしてお尻の方なの?)と少し吹き出しながら思ったひかりは、ハチ公の方へと向かった。そしてスマホを耳に当てながらひかりを探しているように駅の方を見たり交差点側を見たりしている森下を見つけた。ひかりはそのまま電話を切らずに森下に近付いた。そしてハチ公の前の方に到着すると、
「スーツ姿も似合うね。」
と、言った。森下は、驚いたように周りを探している。ハチ公を挟んで前と後ろに居るとも知らないで・・・。しばらく森下の行動を見て楽しんでいたが、やがて森下の前に姿を現わした。
「ビックリした!何処で見てた?」
森下はまだスマホを耳に当てながら尋ねた。ひかりも電話に向かって、
「ハチ公のお尻の方って言われてから私はハチ公の正面からそっと覗いてた。」
と答えた。二人は顔を見合わせて爆笑した。
「研修、お疲れ様でした。」
ひかりに言われ、少し照れながら、
「あ、うん・・・」
とだけ答えた森下に一瞬昔を思い出したひかりだった。森下は誰にでも優しく接するくせに自分が誰かに優しくされたり気配りをされたりすると照れながら下を向く癖があった。目の前の森下はあの頃と変わっていなかったのだ。
「お昼って、何処で食べる?俺、よく分からないんだけど・・・」
森下は照れ隠しなのか、ガイドブックを広げながら話題を変えた。
「こっちにランチの穴場的カフェがあるんだけど、軽食しかないんだけどいい?」
ひかりは、森下を促した。
「こっちは、星野のテリトリーだもんな。任せるよ。俺、軽食でも何でも大丈夫。数頼めばいいんだから。」
と、笑いながら言った。
二人は、ひかりの馴染みのカフェに入った。そして他愛もない話をしながら、同窓会の写真を見て、思い出話で盛り上がった。
「星野は、小学校の時にはおとなしい性格だったよなぁ。今は、何してるんだ?今日も仕事が夜からだって言ってたけど・・・」
森下は、言った。ひかりは、
「変則の仕事でね。早朝の時もあるし、夜の時もあるの。昨日は夜中までだったから、今日は昼間じゃないんだ。」
と、さらりと答えた。
「そっか。変則勤務は大変だよなぁ。俺は普通の企業に就職出来たから研修が終わるまでは定時で帰れるから想像付かないけど。」
森下は、ナポリタンを頬張りながら言った。
「ねぇ、森下君。覚えてる?小学校の時のこと。」
ひかりは、尋ねた。
「ん?小学校の時の何?」
森下は、相変わらずナポリタンを頬張りながら聞き返した。
「廊下に落書きしたでしょ?」
ひかりは、ドキドキしながら尋ねた。森下は、少し考えたあと、
「もしかして・・・相合傘?」
と聞いてきた。
「・・・うん。あの相合傘、まだ書いてあったよ。見た?」
ひかりは、少しうつむいて尋ねた。
「見たよ。残ってたな。あの時は参ったよ。急に星野、泣き出しちゃうんだもん。」
「だって、恥ずかしかったんだもん。どうしてあんな事書いたの?」
「俺、ずっと星野が好きだったからなぁ。素直に書いちゃったんだ。」
「えっ?イタズラじゃなかったの?」
「えぇーーーー!イタズラだと思ってたの?ショック~~~~。」
「私、ずっとイタズラだと思ってた。」
「俺さ。卒業して中学が別々になった時には本気で寂しかったんだぜ。まさか、星野が私立に行っちゃうなんて思ってなかったから。10年後にみんなで逢おうって言い出したのも、星野に逢いたかったからなんだ。卒業してすぐじゃ、俺もなんとなく恥ずかしかったから10年なんて言っちゃったんだ。」
「えっ?」
ひかりは森下の言葉に耳を疑った。ずっとイタズラだと思っていた相合傘が実は違った上に同窓会のセッティングも自分と逢うためだったと言っている。しかもサラッと好きだったとも言っている。森下の言葉すべてに驚いていた。そんなひかりの動揺にも気付かず森下は続けた。
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