もう一度あの場所で・・・

あかり紀子

第1話🌸同窓会

 「戻ってきたんだなぁ~」

小学校の正門前の桜の木の下で、ひかりは呟いた。

10年前に卒業した小学校。最後のクラスで誓い合った【10年後の同窓会】が、今日だったのだ。実家に届いていた案内状を母が送ってくれ、無事参加する事が出来たのだが、懐かしさに胸が躍り、開催時間よりも2時間も前に到着してしまった。まだ辺りには誰も同級生らしき人は居なかった。

 ひかりは、ゆっくりと正門を入って行った。職員玄関をチラッと覗くと、中に居た教職員がそれに気付いた。こちらに向かって来る教職員の顔は、残念ながら見覚えはなかった。まぁ、当然と言えば当然なのかもしれないが・・・

「何かご用ですか?」

教職員は、ドアを挟んだ状態でインターホン越しに尋ねてきた。

(そうか・・・こんな時代だから、簡単には中に入れないんだ)

ひかりは、物騒な時代になった事を改めて寂しく思った。

「すみません。30期卒業生ですが、今日ここで同窓会があるんです。時間より早く着き過ぎてしまって・・・」

ひかりは、そう言いながら同窓会の案内状をドア越しに教職員へ見せた。

「あ、聞いています。ちょっと待ってくださいね。今開けますから。」

教職員の態度が一変し安堵の表情でドアの鍵を開けに来てくれた。中に入れてもらうと、なんとも言えない懐かしい匂いがした。

「ありがとうございます。」

ひかりは、教職員に会釈しながら告げると、会場となる6年4組の教室へと向かった。途中の廊下には相変わらず生徒たちの作品が展示されていた。昔から変わらぬ光景だ。懐かしさが一気に溢れ出した。ひかりはゆっくりと展示品を見ながら教室へと向かうと廊下の片隅にある展示用のガラス張りになっている収納棚の横に、あるものを見つけた。


相合傘


そこに書かれた名前を見ながら、ひかりは自然と笑みがこぼれた。

「へぇ~。まだ残ってたんだ。」

ひかりはそう呟きながら再び教室へと向かって歩き出した。


 教室に着くと、廊下に机と椅子が出され前日までに準備したであろう飾り付けがしてあった。黒板には、


【帰って来た6年4組!】


と言う文字が書かれていた。恐らくは、幹事が書いたのだろう。ひかりは、それを見ながら幹事の当時を思い出していた。机の代わりに置かれたテーブルや椅子。そこに並べられたお菓子。それらを見ながら、みんなに逢えるのを楽しみにしていた。


 それから30分ほどすると、誰かがこちらに向かって来る気配を感じた。スリッパをパタパタ鳴らして気配は教室に近付いて来た。そして、教室のドアの前で止まると、

「えぇっと・・・同窓会に来た方ですか?」

ドアの前で男性が、ひかりに向かって丁寧な口調で声を掛けた。どうやらひかりだと分からないらしい。

「うん。森下君でしょ?私よ、星野。星野ひかり。」

ひかりには、その男性が森下優治だと言う事はすぐに分かった。つまり変わっていなかったのだ。

「えっ?星野?マジかよ!全然分からなかった。」

森下の口調はすぐに変わった。懐かしさでいっぱいになった。

「招待状、ありがとう。本当に10年後に同窓会が出来るなんて思わなかったよ。嬉しくて2時間も前に到着しちゃった。」

ひかりも昔に戻り、話し始めた。そして、しばらく2人は10年前にタイムスリップし、小学生時代を懐かしんだ。


「そう言えば、星野は今何処に住んでるんだ?住所が分からなくて実家に送っちゃったんだけど、今は居ないんだよな?」

森下に聞かれ、ひかりは

「今は東京に居るの。招待状はお母さんから送ってもらったの。」

と、答えた。

「そっかぁ。東京に居るんだ。じゃあ、今日はわざわざ東京から来てくれたんだなぁ。嬉しいよ。」

森下は、屈託のない笑顔で言った。そのうち、1人・・・また1人とクラスメイトが集まってきた。やがて、同窓会の開催時間となり、ひかりも他のクラスメイトと思い出話に花を咲かせ始めた。

 同窓会は、時間を一気に10年前にタイムスリップさせた。

みんなそれぞれ大人になっていたが、名前を聞けば当時が蘇ってくるのだ。春休みの間の土曜日と言う事もあり、もちろん今ここに通っている生徒たちは居ない。居るのは、当直の先生と当時を懐かしむクラスメイト。そして、当時担任だった先生だけだった。当時の思い出をたっぷり思い出させてくれる同窓会に、クラスメイトは終始笑顔だった。

 あっと言う間にお開きの時間になったが、誰一人として帰ろうとはしなかった。それくらい楽しい同窓会だったのだ。当時は怖かった担任も今では別の学校の校長先生をしているらしくすっかり穏やかになってしまい、時間厳守が口癖だったとは思えないほど何も言わなかったのだ。終了予定時間を1時間も過ぎていると言うのに・・・


 それからしばらくして、幹事である森下が、教壇に立ち

「えぇ~、みなさん!盛り上がってるところ悪いんだけど、そろそろお開きにしたいと思います。この後は、もう少し教室を貸してもらえることになったので、時間がある人はそのままおしゃべりに盛り上がっても大丈夫!でも一旦、締めさせてもらうな。」

と言った。クラスメイトたちも、素直に従った。そして、三本締めで一応同窓会はお開きとなった。ひかりは、まだまだ盛り上がっていたい気持ち半分と、帰らなくてはいけない現実半分の間で格闘していた。しかし、予定があるのだ。帰らなくてはいけない事を友人たちに告げた。

「ゴメンね。私、これで失礼するね。」

ひかりの言葉に当時の友人たちは、

「えぇーーーー!まだいいじゃん!」

「久しぶりに逢ったのに、もう帰っちゃうの?」

「もう少し居ればいいのに・・・」

と、口々に引き止めてくれた。

「ゴメンね・・・予定があるんだ。」

ひかりは申し訳なさそうに答えると、森下のところに行き、

「今日は本当にありがとう。私はこれで帰るね。みんなと逢えてすごく嬉しかった。また10年後もこうやってみんなで逢えるといいね。」

と伝えた。

「帰っちゃうんだ。忙しいんだな。また、近いうちに飲みに行こうかって言ってるんだけど、星野も来いよ。・・・良かったら、スマホの番号、教えてくれないか?」

森下は、自分のスマホを出しながら言った。ひかりは、スマホの番号とLINEのアドレスを教えると、

「なんかあったら連絡ちょうだいね。」

と言い、教室をあとにした。当時、そんなに目立っていなかったせいか、ひかりが帰ったあとはまるでひかりが最初から居なかったかのように同窓会は延長された。しかし、森下だけはひかりの行動が気になっていた。

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