第9話 雑談と呼び方


 三人になった部屋で、パーチェに朝桐君の事を簡潔に説明していく。


 それからしばらくして…。


「こないわね~…」

「こないな~」

『?』


 菱川さん、俺の順番で呟く、それを聞いていたパーチェが首を傾げている、可愛い。


『ああ、新しく召喚されてくる人がこないなって言ってたんだ』

『そういえばそうですね、確かに先ほどテツヤ様が来られてから、時間がかかってますね』

「時間にして30分くらいかしら?朝桐君達も検査に行ったきり帰ってこないし、…暇ね」

「まぁそうだね、俺らはここから動けないしどうしようか…。暇つぶしに何か喋る?」

『ええっと…』

『朝桐達も検査から帰ってこないねっていってたんだよ』

『ああ、そうですね…あっ!私様子見てきましょうか?』

「あら?見に行ってくれるって言ってくれたのかしら? いいじゃない、見てきて貰いましょうよ」

『…なら、悪いんだけど見てきて貰ってもいいかな? あ、検査の方は見に行かなくていいからね、召喚がどうなってるかだけ見てきてくれる?』

『はい、わかりました、それでは見てきますね』


 そう言った後に席から立ち上がり、様子を見に行ってくれた。

 菱川さんと部屋に二人きりになってしまったなぁと思ったのも束の間


「暇つぶしに…ちょっと聞いてもいい?」


 と話しかけてきてくれた。


「ん?別にいいよ、何?」

「元の世界では何をしてた人だったの?」

「あ~…何もしてなかったなぁ…」

「何もしてない? ニート?」


 ぉおぅ、ハッキリ言うなこの人。


「うん、その…仕事中に倒れちゃってね、病院にいったら原因不明の病気があるって発覚して、それのせいで仕事やめてからは…何もしてないんだ」

「…ふ~ん、重い病気だったの?」

「どうなんだろ…日常生活はそれなりに送れたからね、ただ倒れる前までに出来てた事はできなくなってた、体も病気が発覚する前より動かないし、思考にも影響があってね、考え事をしてもうまく頭が回らないんだ。医者は脳が原因かも知れないとは言ってたけど……さっきも言った通り原因不明だからね、わからないまま」

「…大変だったのね」

「まぁね、大変じゃなかったって言ったら嘘になるかな、けどこの世界に召喚された、何故かはわからないけど、この世界に来てから病気の症状がないんだ! 久しぶりに元気な体を体験してるよ」


 パーチェは加護なのかなって言ってたりもしたけど、加護って何個も与えられるもんなのかな?

 ……もしかして言語の加護じゃないとか? まさかねぇ……。


「加護の力なのかしらね? そういえば神様にも会ってないんだっけ?」

「そうだね、けど、それについては召喚される前に元の世界で死にかけてた事が関係してるのかも、とは思ってるよ」

「死にかけてた!?」

「ああ、俺、元の世界で刺されてたんだよ、んで、血を流し過ぎたのかで意識失ったんだけど、気がついたらケガも刺された形跡も消えてこの世界に来てた」


 あの出来事が夢だったんじゃないかと思うほどに跡形もないんだもんな……、絶対夢じゃないけどな。


「えぇ…なんかよくわからないんだけど、なんでそんな状況になるのよ…」

「いや、偶然だったんだよ、さっきもいったけど病気になって仕事も辞めて、新しい定職に就こうにもどこも雇ってくれない、んで周囲から人もいなくなって、気がついたら家に引き籠もっちゃってたんだよ」

「…………」

「そんな状態になってたのに、その日は何故か外をぶらつきたいと思っちゃってね、それで出歩いてたら目の前に襲われそうになってる親子がいてね、助けようとして間に入ったらそのまま刺されちゃったんだよ」

「えぇぇ……」

「んで、まぁそこからはさっきも言ったけど気がついたら異世界に来ててケガも消えてる!? 生きてた! よかった!って感じかな」

「…あのさぁ…」

「ん?」

「キツイわ!」

「うぉ!?どうしたん、ビックリした! えぇ…聞かれたから答えたのに…理不尽すぎる…」


 聞かれたから答えたのに、上を向いて顔に手を置きながら、「あ~も~」とか言ってる……。


「そりゃ聞いたけどさ! もっと軽いの考えてたのよ! 私みたいに帰り道に意識を失って気がついたら異世界でした~、みたいなの想像してたのに何? 重い! もうビックリっ!? 気軽に聞いてごめんなさいねっ!!」

「いや、謝らんでも…、それに俺としてはもう終わった話だからさ…」


 そんな聞いた事を後悔してるって反応されても困る。

 叫びに近い謝られ方をした後に今度は俯いてたんだけど、俺が言った言葉が引っ掛かるのか、そこから少し顔を上げて、ジト目でこちらを見ながら会話を続けた。


「……こっちに来てからまだ少ししか経ってないのにもう元の世界の出来事をもう割り切れたの?」

「あ~……、ごめん、完全には…割り切れてないかな…、けど前の世界みたいに誰かに邪魔にされる事もないし、何にも出来なくなってた俺がこっちの世界では何かができそうなんだ…、呼び出した理由はどうあれ俺は救われたんだし、ならその恩を返さなきゃ駄目だと思うし、取り敢えず出来る事をやろうかなってさ」

「…そっか、想定外だったけど貴方がどうしてこの世界のために動こうとしてるのかは、何となくだけどわかったわ」


 そうだな、何で俺こんな事話してるんだ?

 まぁいっか、ついでだし俺も聞いちゃおうか。


「俺も聞いてもいい? どうして菱川さんはこの世界のために協力しようと思ったの?」

「ん?私は単純よ? 知識を望んだ時にこの世界の常識というか現状というかが頭に流れ込んできててね、ん~…、危機感を植え付けられたって言えばいいのかな…? どれだけヤバいかを理解させられたからね、この世界のために動かなきゃって思えちゃってるのよ」

「…それって何か怖くない?思考誘導受けているように聞こえたんだけど」

「まぁ少なからず受けているとは思うわよ? 自分で望んで手に入れたものだからね、自業自得っていえばそれまでだし、…ただ、今はそれだけが協力する理由ではないわね」

「え、そうなの? …あっ、穂華ちゃんと光希君のため?」

「…まぁそれもあるけどね、けどそれだけじゃないわ、自分のためよ」

「自分の?」

「そ、自分のため、やれることをやらなかった自分が嫌なのよ」

「そ…そうなんだ……」


 この人凄いな……ちゃんと自分を持っている。


「ああ、やだやだ、もっと違う話しましょう!」

「違う話?」

「そうね~…あ、鏑木君、かなり喋り方がフランクになってきてない? 最初はですます口調だったのにぃ」

「うっ…、す…すいません」

「うふふ…ごめんね、いいのよ、私も堅苦しく喋られたら困っちゃうし喋りづらくなっちゃうから、それでね、提案なんだけどこの先も一緒に行動するのならもっと気軽に喋りましょうよ」

「ん?えっと、気さくに喋るって事……ですか?」

「ああもう、ですますとかはいらないわ、そういう堅苦しいのは無しで気さくに喋りましょうっていってるの! それにこの世界でパーチェが貴方を呼んでるみたいに名前の方で呼ぶのが普通っぽいじゃない? 私達も名前で呼び合いましょうよ」

「ぅえぇ!?」

「え?何、嫌なの? パーチェの事は愛称で呼んでるのに私の場合は名前で呼び合うのも嫌なの?」

「いやいや、違う違う! 単純に馴れてないだけ! 女の人を名前呼びとかしたことがないだけだってばさ! パーチェは…なんでだろ? 何故か普通に呼べてたな……」


 なんで違和感なく呼べてるんだろ……、てか、女の人を愛称呼びしてたのか…気がついたら恥っずぃ!


「じゃぁいいじゃない! それに穂華ちゃんは名前呼びじゃないのよ、あの子も女よ? 崇志君」

「あはは、穂華ちゃんは女の子じゃんよ、菱川さんは違うし」

「はぁ!? 女の子なんだけど!? どういうこと!? そんなに年取って見えるっての!!? おばさんって事!?」


 めっちゃ食いついてきた!? 怖い怖い、勢いが怖い! それよりおばさんってやっぱり思われたくないんじゃないか!


「違う違う!!あと近い!…菱川さんは綺麗だし女性じゃないか…なんか照れるというか恥ずかしいというか…そういう事なんだって…!」

「…………ふ~ん…まぁ、いいわ、……とにかく!私がいいって言ってるんだから練習も兼ねてこれを機に慣れときなさい」

「うっ……わかったよ、さ…聡莉さん」

「うん、宜しい! じゃぁ私も崇志君って呼ぶわね」


 笑顔になってくれた…よかった、怒った顔で机に身を乗り出して迫ってこられるのは怖い、それに答えを間違えたら殴られるのかと思った、拳握ってたし…。


 …………それに机の上に乗り上げて前傾姿勢でいたもんだから、服の胸の隙間が大きくなって胸が見えるかと思った…、危ない危ない、まぁ胸がないから全然見えなかったけどって痛ぃ!!?


 えぇ…何で殴られたし…。

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