第6話 菱川聡莉と知識の加護


「パーチェ…って、お?」


 パーチェに話しかけようとした途端部屋のドアがノックされた、このパターンは…。


「はい、どうぞ、お入りください」

「失礼します、使徒様達はこの部屋に集まっていると聞いて参りました」


 扉を開けて立っていたのは細身のハ…坊主の男の人だった。

 後ろには…女の人だ、二十歳くらいかな?

 腰辺りまで伸びた髪が印象的だな、あ、こっち見た。

 ……ツリ目だ、穂華ちゃんもツリ目気味だけどあっちは大きいツリ目、えっと猫目っていうんだったっけ? なのに対してこっちはキツそうな感じだ。

 ただ…キツそうな感じはしてても……かなり美人だわこの人、見られた時に凄いドキッとした。


「ビルさんにお聞きしましたがこちらに居られる使徒様は新たに召喚された使徒様との通訳をなさってくれるそうで」

「あ、ビルさん伝えてくれたんですね、自分がそうです」

「確かに会話ができますね、よかった、片言でしたら通じるのですが喋る事は難しいそうで説明となるとなかなか難しくて」

「えっ!?話せる?」


 通じるし話せるの!? この人も話せるのか!加護ってかぶるのかな? けど片言っていってたし違う加護か。


「あ、えっと…」


 やばいな、この人美人だから緊張する、話し掛けようとしたけど言葉がでてこない…。


「私ですか?」

「あ、はい、そっすね、えっと…この人達の言葉がわかるんですか?」

「少しだけ…ですけどね、慣れてさえしまえばもう少しスムーズに簡単な会話くらいならできるようになると思います」


「あ、あの…」

「穂華ちゃん? あ、ごめんね、まだパーチェに話してないんだ、すぐ聞いてくるよ」

「あ、後でもいいですよ崇志さん、此方のお姉さんの説明が終わった後にでも大丈夫ですから……、この世界の事知らないのなら先に説明してあげないと不安だと思いますし先にしてあげてください」

「ありがとう穂華ちゃん、あれ?じゃあどうしたの?」

「あ、いえ、今から崇志さんがお姉さんに説明するのだったら何かお手伝いできる事があるかと思いまして…」


 うわぁ…、この子いい子だ。


「ありがとう、なら俺が困ったら頼むね、…えっと先ほどこの世界の言葉がわかるようなことを仰ってましたが」

「はい、ですけど先に自己紹介から始めませんか?名前を知っていた方が呼びやすいですし…、まず私から紹介させていただきますね、私は先ほどこちらに召喚された《菱川ひしかわ 聡莉さとり》と申します。」

「あ、俺は鏑木 崇志です、こっちの女の子が」

「小城原 穂華です、あっちの席に座っているのが私の弟の光希です、あ、それで話せるってどういうことですか?、もしかしてこの世界の言葉って元の世界で使われている言語だったとか?」

「えっと、穂華ちゃんだったわね、私が知っている限りでは元の世界で使われていた言語とは違うと思うわ、これはね、私の加護の力なのよ」

「「えっ!?」」


 俺と穂華ちゃん二人の声が揃った。


「あら?貴方達はあの人、えっと神様でしたっけ?…に会わなかったのかしら?」

「俺は会ってないけど、この子とあっちの子は会ってるらしいです」

「そうなの? ならその時に神様に望むべく力を与えるって言われた事は知っているかしら?」

「ええ、この二人に大体ですが神様に会ったときの会話の内容は聞いてます」

「なら話が早いわね、私がその時神様にお願いしたのは『知識』だったのよ、この世界のね」

「知識…?」

「ええ、それこそこの世界の事なら言語から世界の成り立ち、土地柄、民族までいろんな事を知れるわね、この加護は私がこの世界で知ろうと思った事は大体のことはわかるようになるらしいわ」

「すごい…」

「ただ欠点もあってね、さっきも言ったけど私が知ろうとしないと発動しないのよ、それに知識が手に入ったからといってそれがすぐに使えるとは限らない、知る事が出来るのもこの世界にモノ限定だし、加護とかの力を持っている相手の情報は読み取れない事もあるらしいわ」

「あ、会話がいま片言でしかできなかったりするのは…」

「そうね、知識はあるけど上手く発音はできないし聞き取るにしても、それを理解するために日本語に訳す工程を挟んじゃうから翻訳に時間がかかちゃってね、慣れても簡単なのならともかく普通に会話できるまでは時間がかかりそうね」


 なんか凄まじい加護持ってる人が現れたな。

 翻訳作業が必要な以外は俺のなんて目じゃない能力だ…俺が言語だけなのに対してこの人はこの世界限定ではあるけど全部のことがわかるって事か?


 今はまだ俺がいないと意思疎通が難しそうだけど、その内に会話も出来るようになるんだろ? やっぱり凄い加護だ。


「あ、この世界の知識が手に入るんならちょっと教えてほしいことがあるんですけど」

「何かしら、早速お役に立てちゃうかな?」

「教えて欲しいのはこの世界の事なんですよ」

「この世界について?」

「ええ、世界が崩壊するとかこの世界を維持してた神様がいなくなった事はパーチェ達……この世界の人に説明してもらったんですけど、この世界がどんなところなのかが全然わからないんですよね……あ、魔法が使えるってのは聞いてたか」

「えっと、世界観だけでもいいかしら? それなら召喚された時に少し調べてあるからすぐに説明できるわよ?」

「はい、お願いします」

「どう説明すればいいのかな…、ゲームってやったことある?RPG風の世界観といえばわかりやすいかしら…剣と魔法とモンスターが普通の世界ね、今私達がいる場所は知ってる?」

「確かオーフィア王国とかパーチェが言っていたような…」

「そうね、オーフィアであってるわ、詳しく言えばこの世界ほしで一番人間が暮らしている国のその王都にある教会……神殿かな?の中ね、あ、世界ほしの大きさは地球と同じくらいだと思って良いわよ」

「あ、転移者はやっぱり地球の人達なんですね、安心しました…違う世界から来てる可能性も考えていましたから…」

「ん~…多分同じ世界からだと思うんだけど…、面白そうだしそれは後で話し合ってみましょうか、もしかしたら平行世界の可能性もあるかも知れないしね」


 平行世界、パラレルワールドだっけ? 前は信じられなかったけどこんな体験しちゃってるから今なら信じられるわ。


「……で話を戻すんだけど、さっき人間が…って分けて話したけど人間以外の種族もいるらしいわ」

「異人、亜人、魔族ですか?」

「ああ、それも知ってたの?正確には異人と亜人は同じよ、その土地によって呼び方が変わってるだけね」

「この世界を維持してる神様の説明をしてた時に軽くだけ聞いてたんだよ、どんな種族がいるのかとかは知らないね」


「はいはい!!じゃぁさ!じゃぁさ!ゲーム風って事は冒険者ギルドみたいなのもあるの!? 教えてよ、お姉さん!」


 いつの間にか光希君が俺の隣に来ていてた。

 いきなり隣から声が上がったからちょいビックリしたわ…、まぁ後で説明するのも手間だから一緒に話を聞いてくれるのはありがたいな。


「ええ、あるわね、冒険者…とは違って様々な名称で呼ばれてるみたいだけど、探索者、討伐者、回収屋と呼ばれる人とそのギルドはあるわね、あ、それらを全部こなしてる人達は冒険者って呼ばれてはいるわね……まぁ冒険者ギルドとは違うけどそれに近い組織はあるわよ、それに今いった以外の他にもいろいろなギルドがあるみたい」

「はぁ…ならやっぱり危険な世界ではあるんだな、さっきモンスターも普通にいる世界っていってたし……、じゃぁ他の神様に会うために旅しなきゃいけなさそうだし、この子達を付き合わせるのは酷だな」

「うん?どうして?そこはその子達の自主性に任せればいいんじゃないの、大人だからって子供達の動きを押さえつけるのはどうかなって私は思うんだけど…」

「あ、すいません、それについてはさっき私が…」


 と、さっきまで話していた事を菱川さんに話していく穂華ちゃん。

 そういえば説明するために会話を始めたのに俺は全然説明してないな…。





「そうだったのね…、確かに決断しにくい事ではあるからゆっくりと決めれば良いと思うわ、私にはあんまりその気持ちは理解できそうにないから…ごめんなさいね」

「いえ、私も迷惑かけるかもしれない事はわかっています、申し訳ないです…」


 う~ん、やっぱり何度聞いても何か違う気がするんだよなぁ…。

 俺的には無理に子供達まで付き合わせる必要はないし、大体穂華ちゃんがいう迷惑ってなんだ?無理矢理この世界に連れてこられて、この世界の事情には付き合えないから迷惑をかけるって考えてるんなら違うと思う。


 この世界の人的にはどうなんだろ? 無理矢理召喚した相手がこの世界の都合なんか知るかって協力しなかったら強制的に従わせようとしたりするんだろうか…? 少なくてもパーチェはそんな感じには見えなかった。


「うん、まぁ穂華ちゃん達はあんまり気負う事はしなくていいと思うよ」

「え?」

「さっきも言ったけど、最低でも俺は崩壊を防ぐために動くし、俺が動いた結果この世界が救われたら多分帰れるでしょ!…何時になるのかわからないのは不安だと思うけど…ってか帰れるよね?一応過去の召喚者は帰ったって文献にあったらしいんだけど…、どうなの菱川さん?」

「ええ、この世界に呼び出された目的を達成できれば帰れるのは本当らしいわね、正確にいえば帰るか残るかを選ぶんだけどね」

「ほら、なら問題なし!俺が目的を達成すればいいんだし、穂華ちゃん達は待ってても大丈夫、これから召喚されてくる人達の中には穂華ちゃんと同じような考えの人もいると思うんだよね、それに強制的に呼び出したんだから召喚者達の分の衣食住の面倒くらいみてもらわないと」


 と言ったんだけど穂華ちゃんはまだ納得できてはいないっぽいな…。


「話にでたけど、確かに私達の衣食住に対して面倒を見てくれるのかは大切ね、人の意志は私の加護じゃわからないからちょっと今の内に確認とって来てもらってもいい?」

「分かった、ちょっと聞いてくる」


 パーチェは神官達と集まって話をしてるな、3人もいるんなら誰か答えられる人いるだろ。





 話を聞いてきたけど、穂華ちゃんの考える時間についてはゆっくり考えて欲しいと言われたのだが、衣食住については確実な回答は得られなかった。


「聞いてきたけど、パーチェは当然ですっていってたんだけど、他の神官達は上の人に聞かないとわからないっていってた、一応パーチェがいうには巫女様は最初からそこらも準備しておくように話してたらしいから多分大丈夫だろうって言ってたけどさ…」

「そう、多分ってのが引っ掛かるけどそこは後で確認するしかないのね…」

「そうだね、あ、菱川さん連れてきた神官が言ってたんだけど召喚者が集まったら誰かに会わされる事になったらしいんだ、もしかしたらそこで説明されるんじゃない?」

「そうかもだけど即答されないのは怖いわね…」

「……」


 穂華ちゃんがちょっとまた暗くなってきたな…どうしようか、光希君は…あ、近くにあった椅子に座って何か飲んでる、自由だなこの子。


「穂華ちゃん聞いてきたよ、ゆっくり考えて答えを決めて欲しいってパーチェは言ってたよ、焦らないでいいからゆっくり考えて決めよう」

「崇志さん…」

「答えを急かせたり無理矢理に従わせようとするなら逃げちゃえばいいしね、その時は私も付き合うわよ鏑木さん、穂華ちゃん」

「菱川さん!?」

「さっきもいったけど大人だからって子供を押さえつけるのは私イヤなのよ、世界の危機なのはある程度理解してるけど解決するにしても自分の意志でそれができないなら知らない、勝手にするわ」

「え?え?でもいいんですか?この世界の事、神様に頼まれてますよね…?それに神官さん達も困る事になるかと思うんですけど…」

「知らないわよそんなの、知識を手に入れてこの世界の現状を知って同情もするし理解もしているけど、譲れない所は譲れないの、それにこんな子供達を巻き込んだあの神もぶん殴ってやりたいくらいだわ」


 そう言いながら拳を握りストレートを放つ動作をする菱川さん。


「それに言ったわよね、私この世界のことなら大体何でもわかるのよ?どんな言語でも喋られる鏑木さんに、この世界の事なら大体わかる私がいればこの世界でも生きていくなんて、他人の手を借りなくても簡単だわ、一応世界の崩壊を救うためには動くつもりだけど別にこの国でする必要はないしね」


 ぉおう、なんかこの人かっこいいな…。


「まぁ、それは最終手段だからね、逃げるにしてもモンスターが蔓延るとこを移動しなきゃいけなくなるんでしょ?そんなのに付き合わせるのは結局危険な事になるんだからさ」

「わかってるわよ、だから出来るだけそんな事にならないように動くわよ、そっちにも協力するわ鏑木さん、ヨロシクね」


「!?…っぉう、ヨロシク…菱川さん…」


 …微笑まれてついドモってしまった、美人の笑顔って破壊力あるわ……、いや、俺が免疫なさすぎるだけか…?


 そういえば女性とこんなに長く仕事以外で話した事ってあったっけ…?

 やめよう、悲しくなってくる…。


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