第5話 小城原穂華と小城原光希


 騒ぎ声が聞こえたと思ったら姉弟が喧嘩をしていた。


「だから、まだ何にもわかっていないのに協力なんてしちゃダメっていってるんじゃない!」

「いいじゃんかよ!困ってるっていってたじゃないか!それにそのために呼ばれたんだろ!俺はやるぞ!」

「すぐに返事しちゃダメっていってるの!どうしてわかんないのよ!」

「おっちゃんだって協力してるっぽかったじゃん、なんで俺はダメなんだよ!」

「話を変えないの!、それにあの人は大人でしょ!あんたは子供なの!しかもお父さんとお母さんもいないんだよっ!?何かあったらどうするの?私責任とれないよ!?」

「だから自分のことは自分で責任とるっていってんじゃんか!姉ちゃんは関係ない!!」

「そんなわけないでしょ!!大体責任とるってのが何なのかもわかってない癖に!!」


 あー…、やべぇくらいに白熱してるわ、えぇ…こんなんなってるのに聞きに行くの?うわぁ…。


「おーい、ちょい待て、ちょい待て、一回落ち着け、んでちょいと俺の質問に答えてくれ」

「あ!おっちゃんは協力するんだろ!?じゃぁ姉ちゃんに言ってやってくれよ!」

「何を言ってんのよ!私何も間違ったこと言ってないじゃない!!」

「あー、マジで落ち着いてくれ…、とりあえず名前だけでも教えてくれないかな…」


 話聞いてくれねぇ…。

 助けを求めるようにパーチェに視線を向けて見るも、困ったようにそわそわと体を動かしているだけだ。

 あ、そうだった、言葉通じないだったわ…。

 うん、無理、大人しくなるまで待っていよう。

 パーチェのところで待って落ち着いた頃にまた話しかけよう、ここにいたら巻き込まれそうだ…。





 その後も騒いでいたがしばらく待ったらある程度落ち着いたのか、疲れたのか、とりあえず大人しくなった。


「…落ち着いたか?最初ココに来たときは不安そうにしてたのに、まぁ元気がでたんならよかったが…」

「はい…、すいませんでした、騒いでしまって…」

「あ、そいえばおっちゃんさっきなんか俺らに聞こうとしてたよな?何かあったのか?」


「こらっ!騒いでて迷惑かけたんだから先に謝りなさい」

「はいはいわかったよ…、ごめんよおっちゃん!んで何?」

「やっぱり俺が話してたの聞いてなかったか、まぁいいや、先に二人の名前を教えて貰えるか?」

「はい、私は《小城原おぎはら 穂華ほのか》といいます、で、こっちは…」

「俺は《小城原おぎはら 光希みつき》よろしく、おっちゃん!」

「穂華ちゃんと、光希君な、よろしく、俺も名乗ってなかったな、俺は鏑木かぶらぎ 崇志たかゆきっていうんだ、

んで聞いてみたかった事なんだけど二人の加護って自分でわかるか?『望むべく力を与えます』って神様に言われてたんだろ? 俺はわからなかったんだけど、神様に直接会ってる二人なら自分がどんな加護を持ってるのか理解できてるのかと思って確認に来たんだ」


「ん~…何かわかるか?姉ちゃん…」

「…特にこれといって何か変わったとかは…なさそうですね」

「うん、やっぱり俺も何か手に入れたって感覚はないよ」

「そっか、一応さっき聞いた話では召喚された人達は自然にどんな加護を持ってるのか理解できるって話だったんだけどなぁ、何か理解できるのに条件があるのか、それとも今回の場合は適応されないのか…、まぁ俺もさっきわかったしその内二人もわかるだろ」

「楽しみだな~、必殺技みたいなの使えたりするのかな~」


「あの…こちらからもお話したいことがあるんですけどよろしいでしょうか?」

「ん、どうした?」

「先ほどこちらの世界を救ってくれと言われましたけど私達はこの世界の事をなにも知らないです、土地も知らなければ文化も知らない、そして酷い言い方をすれば拉致されてここに連れてこられました。」

「うん、その通りだね」

「なんとなくですけど、世界が崩壊するのは本当の事なんだろうとは理解してます、……理解が出来てしまっています、本来信じられないような話なのに不思議とそれを受け入れられている自分がいます」


 真剣に此方の目を見て覚悟を決めて話している、その姿を見せられ俺も先ほどより真剣に聞く事にする。


「……けれど!私は協力する気にはなれません!…少なくてもこの世界を知って、見て、そしてわかってからじゃないと協力はできません」

「姉ちゃん!!」

「うるさい!今は黙ってて!……すいません、続けます…加護が何かわかったらお伝えはしたいと思ってはいます、けど協力するにしてもどのような危険があって、どんな事をしなければいけないのかもわかっていない現状では、…何も協力する気にはなれません!…だから協力するにしても時間をくださいっ、少なくても…私達がこの世界を知るまで、救いたいと思えるまでは…時間をくださいっ!」

「…その結果救いたくないと思ったら?」

「その時は私は何があっても動きません、独自に帰る方法を探すなりするとは思いますが…、この子は協力しようとするかもしれませんけど…私が止めます、危険な目に遭ってほしくないから……」


 そこまで言った後に歯を食いしばり黙ってしまった、精一杯勇気を振り絞って発言したんだろうな。

 目尻に涙をためて、けどそれを流す事はなく震えながら、覚悟を込めての発言であり宣言だった。


 そりゃそうだ、現状もわからない、この世界についても崩壊に向かってる以外は魔法が使える、神がいるくらいしか知らない。

 ここに住んでいる人達がいい人か悪い人かもわからない、どんな世界かもまだわかってないんだ。

 自分の目で見て、聞いて感じてから答えをいっても全然問題ない、むしろ急いで答えを出されて後悔されるよりは全然良い。

 この宣言にしてもかなりこちら側に譲歩したものになってるし。


 てかそういえば俺自身もこの世界来てから建物しかまだ見れてないんだよな…。


 …俺は死んだと思ったら何故かケガもなく召喚されてるからな、先ほどの話にでたみたいになんとなくだけど崩壊の事とかも信じられるし不思議と理解もできてる、今まで苦しんでいた病の症状も消えているし。

 こんなこと奇跡でも起きなきゃ、それこそ異世界に行くくらいの奇跡が起きなきゃああり得ない事だ。


 だから俺は、信じられるし信じたいと思った。

 役立たずな俺がまた普通に生きていけるための、再起できるチャンスを貰ったから、この世界に来た事ですでに恩威を受けている俺は協力をしなければいけないと思った。


 だけどこの子達は一方的に連れてこられただけだ、恩義もないし、理由もない、まだ聞いてないけど別に生きてる事に絶望もしてないだろう。

 それが、気がついたら兄弟で知らない場所で、言葉が通じない人達に囲まれているなんて…。

 かなり怖かっただろうし不安だっただろう、こんなのじゃ協力しようとは判断できるハズもない。


 それでも世界を、人を知れば協力できるかも知れないと、そう言ってくれた。

 曖昧にだけど理解してしまったから、ただそれだけなのに協力するかもしれないと言ってくれたんだ。


「うん、わかった。俺はそれでいいと思う」

「……」

「まぁ俺もこの建物から外を見たことがないし、協力するとは決めてるけど今のところできる事も通訳くらいだ。」

「これから来ると思う人達もそんなもんだろうし、穂華ちゃんが覚悟決めて言ってくれたのは感じたぞ。

…まぁ俺は答えは急がなくていいと思ってるから、あそこにいるお姉ちゃん、あ、名前はパーチェって言うらしいんだけど、あの子は俺がすぐに協力するしっていった事に驚いてたし、元々説明と考える時間は存分に与えられてたんじゃないかな…」


「…私が言った事は無駄ですか?」

「無駄じゃないさ!言ってくれなきゃ俺はニブいから気が付かなかったと思うし、気持ちを聞かせてくれて助かってるよ、一応すぐに答えをださなきゃいけないのか確認で聞いてくるけどさ、まぁ心配しなさんな、悪いことにはならないようにどこまで力になれるかわからないけど俺もがんばるから」

「…ありがとうございます」

「あ、弟君も待っててくれよ?聞いてくるからさ、姉ちゃん見といてあげな」


 弟君、光希君は穂華ちゃんが目に涙を溜めてるのを発見してから心配そうにしてたからな。

 この子達は喧嘩もしてたけど、どちらも優しいし互いを思いやれる姉弟なんだろうな…。


 取り敢えず俺はパーチェにさっきの聞きにいかないとな。


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