Null Island
石上あさ
第1話
瓦礫と化した町のかたすみ
コンパスを失くした僕は
足元の花に目を奪われていた
大切なことの思い出し方を
忘れたまま
そのとき
はるか頭上で
名前も知らない鳥が
飛行機雲を追い越していった
※
緯度経度〇度
どんな地図にものってない場所
この更地から始めよう
踏み出した最初の一歩
陸の途切れた崖の上から
見下ろした蒼い海原
願う者の目にだけ道は映る
手放したすべて 弔いをすませ
また立ち上がる
時計は
〇時を超えて新しい時を刻み
北極星が輝きだした
※
緯度経度〇度
どんな嵐が襲いこようと
この航海はとまらない
漕ぎだした小舟の軌跡
瓦礫の町の小さな花に
別れを告げて
オールを手にする
選んださよならが
再会につづくと信じながら
※
昨日 今日 明日も
どんな地図にも記せない場所
その一瞬に飛び込めば
続いてく小さな旅路
緯度経度〇度
どんな嵐に呑まれようとも
瓦礫に日々が埋もれようとも
終わらない小舟の軌跡
心 強くもてたならば
毎日が最初の一歩
Null Island 石上あさ @1273795
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