Null Island

石上あさ

第1話

瓦礫と化した町のかたすみ

コンパスを失くした僕は

足元の花に目を奪われていた


大切なことの思い出し方を

忘れたまま


そのとき

はるか頭上で

名前も知らない鳥が

飛行機雲を追い越していった


緯度経度〇度

どんな地図にものってない場所

この更地から始めよう

踏み出した最初の一歩



陸の途切れた崖の上から

見下ろした蒼い海原

願う者の目にだけ道は映る


手放したすべて 弔いをすませ

また立ち上がる


時計は

〇時を超えて新しい時を刻み

北極星が輝きだした


緯度経度〇度

どんな嵐が襲いこようと

この航海はとまらない

漕ぎだした小舟の軌跡



瓦礫の町の小さな花に

別れを告げて

オールを手にする

選んださよならが

再会につづくと信じながら



昨日 今日 明日も

どんな地図にも記せない場所

その一瞬に飛び込めば

続いてく小さな旅路


緯度経度〇度

どんな嵐に呑まれようとも

瓦礫に日々が埋もれようとも

終わらない小舟の軌跡


心 強くもてたならば

毎日が最初の一歩


  

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