一つの終わりといくつかの終わりそこないどもの良くない企い
「どーーぞ」
トン。
「……あ?」
「知らない? これはラーメンだよ。もやし味噌だけど喜多方系でこれは豚骨ベースに煮干しを加えてあって、見た目よりもあっさと」
「あーすまない。クーヘン君、私は彼に飲み物を、と頼んだはずなんだが?」
「ラーメン、飲み物」
「あぁそうだった。君はそうだった。これは、いい匂いだ。後で頂くからそこに置いといてくれたまえ」
「ダメだよ伸びちゃうよ? 伸びたラーメンってすっごく美味しく無いんだ。でも今食べたらすっごく美味しいんだ」
「わかった。早めに終わらせて本当に後で頂くから、この話が終わったら頂くから、先に君らだけで始めてくれたまえ」
「うんわかった!」
ずぞぞぞぞぞぞぞぞおぞぞぞぞぞぞおぞぞぞぞ、ゲフ、ぞぞぞぞぞぞぞぞぞ。
「ドクター! ドクターY!」
ビ!
「クーヘン君を向こうへ」
ビ!
「うわぁあいオッパイが大きな女子大生くらいの女の子だぁ!」
「…………お見苦しいところを見せてしまったね。だけど彼は悪い奴じゃないんだ」
「訪くが、アレと同じ陣営に入れと?」
「あぁそうだ。全く持ってその通りだ。私は君をヘッドハンティングしたい」
「笑えない冗談だな」
「そうは言うがね。君だってあの事件以来、行く場所が無いんじゃないかい? この世界も荒れてるしね。ちなみに、その後のカンパニーについては?」
「……名前を変えるらしいな」
「あぁ、出直しだってね。だけどそれは表面の話だ。実際は初めから作り直すに近い。幹部であるコロニーマスターの半分が死亡か離反で脱退、資産も設備もボロボロと来れば、やり直した方が断然早い」
「無理だろ?」
「あぁ無理だ。名前を変えても人が変わっても、過去は、愚者のやらかしの影響は残ったまま、周囲は恨みと商売敵ばかり、そいつらにおっかなびっくり営業してくんだ。あぁ数多の異世界を制覇してきたカンパニーとは思えない没落ぶりだ」
「そんなカンパニーに墓荒らししに来てるお前らは何だ? 人のこと言えるのか?」
「あぁそうだった。耳が痛い。確かに私たちはその程度の弱小マイナーベンチャー組織だよ。構成員も先ほどの二人と私で、過去にはもう少しいたけどみな裏切って、そこらで働いてるのは只のバイト、構成人数はまだ三人だ。しかし全員が君と同じあのブラックカード持ちだよ?」
「……貴様」
「知ってるさ。知らせてくれたと言うべきかな。愚者の、道化の唯一の功績、いわゆる『世界に愛されし者たち』を選別してくれたことは大きい。地位も能力も思想も善悪も無視して、ただただ己がしたいがまま好き放題できて、一切のペナルティを受けない世界の主人公たち。一般人から見れば、ずるっこ以外のなにものでもないだろう。私は彼らだけの組織を作りたいんだ」
「あの獣人女みたいにか?」
「異世界救済機構『フレンズ』かな? こっそりと内外に広げてた人脈が芽吹いたカンパニー独立の最大大手、あそこは今『アムールトラ救出大作戦』に向けて人材集めてる。君には、呼ばれても行かないだろうねぇ」
「……馴れ合い組織ならお断りだ」
「あぁもちろんだとも。その点では我々はアットホームながられっきとした職場、儲け第一の組織だよ。そうだな、カンパニーの向こうを張ってコーポレーションとでも名乗ろうか。当面は本拠地探しに商材作り、営業は私がやるから君には物理的な労働をしてもらうことになると思うよ?」
「……荒事か」
「あぁそれが中心だろう。それよりも酷い、君には素敵なことも含まれるよ」
「それはいい。問題はメリット、報酬の話が最優先だろ?」
「そうだとも。ますはラーメンは食べ放題だ。つけ麺もイイぞ……怒らないでよ。だけど本音を言うと、具体的にものはあげられないかな。というか要らないでしょ? お金とか奪えば良いんだし、名誉とかハーレムとかも自前で持ってる。だから私が確約できるのはエンターテイメントだよ。退屈はさせない。これだけは確約できる」
「笑えんな。どこぞの道化と同じだな」
「いやいや、私は彼と違ってみんなで遊べる陽キャラだよ? 楽しませ方も熟知してる。もしも退屈させちゃったら、その時は私を好きにしてくれても構わないよ?」
「大した自信だな」
「もちろんだよ。そうでなかったらスカウトなんかしてないよ」
「……まぁいい。乗ってやろう。それで命令系統は? 絶対服従?」
「命令とか楽しくないよ。一応名目上、私が長だけど、権限は弱めだよ。仕事は、クエスト制かな? 期限内にノルマ達成で報酬を、失敗してもペナルティは、次のクエストのレベルが下がるだけかな。抜ける時は一週間前に、仲間うちでの殺し合いは禁止、揉め事はコイントスで、内部のことは外には話さないで欲しいけど、言ったところであんまり信用されないだろうね。あとはおいおい、話し合いながら、でどうでしょう?」
「……なら俺から条件が二つ。一つは見ての通り俺は車椅子だ。だがこいつが壊れかけてる。新しいのと付随するサービス一式がいる」
「それどころか、ほら、プレゼント」
「………………おい、こいつは」
「新しい心臓、採れたての新鮮だよ。免疫系も大丈夫なはずだ。しゅじゅちゅはドクターもできるけど、君には物さえあれば大丈夫だろ? これは今まで話を聴いてくれたお礼だよ。どうぞー」
「…………驚いたな。本当に死にたてじゃないか。こんなもの、どこからどうやって出した?」
「ヒミツ♡ ただ私のチートの片鱗とだけ教えておくよ」
「…………心臓はもらう。だがまだ問題がある。お前だ」
「あぁそうだ。君はそうだった。やっぱり女の私の下というのは嫌かな?」
「俺は女云々でどうこう言うつもりはない。だが名前を知らない相手と契約するほど迂闊でもない」
「あ、あぁあぁあぁあぁそうだったそうだった。私が迂闊だった。自己紹介がまだだった。それでは改めて、私の名前はナナ=ビンテージ、見ての通り、でもないけど女神だよ。まぁ異世界ではそんなに珍しくはないだろ?」
「どうだか。少なくともセーラー服で女神は、違う意味に聞こえるが?」
「これはまぁ、サービスだよ。それを含めて、何でこんなところでこんなことしてるか、積もる話はラーメンでも食べながらしようじゃないか。もうすぐクーヘン君が食べ終わる頃なんだ」
「……いいだろう。しばらく厄介になろう。だがな、不要と思ったらお前を殺してすぐに出てくからな」
「あぁあぁそれでいい。それでこそ君だ。そんな君だからいいんだ。あぁすばらしい。新たな仲間の誕生だ。あぁその前に、そのために、一筆、この紙のに名前をもらえるかな」
「…………白紙? 契約書のつもりか?」
「いや何、只のサインだよ。有名人にねだるだろ? 君はこれから有名になる。だから今のうちに貰っておく、私の些細な趣味なんだよ。嫌なら別にくれなくてもかまないけど、欲しいな」
「……ふん」
「ありがとう。また一枚、コレクションが増えたよ。しかしこれは、また、豪快な」
「はいラーメンだよ」
ドン!
「くううううへえええええん! サインの上に丼を置かないでくれよぉ。これは大事な大事なコレクションなんだ」
「いやこれ鍋敷き」
「違うから」
「ちぇ」
ビ!
「あぁドクター、ご苦労様。それで鹵獲品の回収は終わったかな?」
ビ!
「よしよし。それでは後片付けして撤収だ」
「ラーメンは?」
「あぁうん、そうだね。伸びちゃうね。あぁっと。契約したてで早速なんだけど、彼らを頼めるかな?」
「それは、荷物運びのバイトどもに休みをやれ、ということか?」
「あぁそうだ。我々はまだ知られたくない。だから秘密保持のため、彼らが余計なお喋りをしないよう、永遠のお休みを漏れなくあげてね。できればラーメン食べ終わるまでに終わらせてくれると有難いんだけど」
「……何か他にリクエストは?」
「そうだな。自己紹介がてらに君らしく凄惨に、かな。ドクターがいるから汚れとかは気にしなくて大丈夫だよ」
ビ!
「なら思い切り楽しませてもらおうか」
「あぁあぁ、期待してるよ」
ずぞぞぞぞぞぞぞぞおぞぞぞお、ゴフ、ぞぞぞぞぞっぞぞぞぞぞぞぞぞ。
「クーヘン君もちゃんと見て。これからはこういったのがメインの仕事になるんだから、しっかり勉強しないとね」
「はーーい」
「はてさて、巨悪は落ちた。道化も砕け、連なる悪はことごとく打ち倒された。だけども私たちが残ってる。いずれは同じ道を辿るだろうけど、それまではタップリ楽しもうじゃな……クーへーーン、ガーリックは抜いてくれと言ったろ?」
異世界再生機構『リブート』 負け犬アベンジャー @myoumu
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