「それで、君は何が見えたんですか?」

「見えた?」マグカップを置いた。

「ええ。何度考えても解せないことがありましてね。君は何度も白子白子と呼んでいた。白子とは一体なんのことですか? 黒い影のほかに何か見えますか? 僕には見えないんですが」


 何を抜かしているんだろうこの人は。ずっと一緒にいたではないか。

 しかも自分の猫ではないか。また先を読めとか言われてもこれは読める問題じゃない。

 二人とも無言で探るようにせかせかと目を動かす。


「出雲さん、本当に見えないんですか?」

「ええ、何も」

「……ぇー……うそ。じゃあ白子さんももしかしてその例のれ……」

「いやだからその白子とは?」

「冗談ですよね?」

「僕がそんな無駄なことするとでも?」

「すみません。あの、今まで一緒に居たじゃないですか。出雲さん抱っこしてました。それに、出雲さんがいないときにここにいた女性です。開かずの間から出たり入ったり……」

「開かずの間とは聞き捨てならないですが、はい、それで理解できました。君が言ってるのは太郎のことですね」

「は?」

「顔」

「いやいや白子さんですって。綺麗な女性!」

「……太郎、おいで」


 出雲大社が空に呼びかけると小さく鳴いて開かずの間から顔を覗かせたのは、あの猫。白子だ。

「ほら! 猫。白子さん」

 出雲大社はほっそい目で湖を見、足元にすり寄ってきた猫を抱き上げた。


「ほら」

 目の前には猫のケツ。顔を横にずらし、

「嫌がらせですか出雲さん」細い目で睨む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る