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「君はドナドナの歌の意味をどう思う?」
唐突な出雲大社の問いかけに、甲乙はぴたりと足の動きを止めた。
しんとなる小屋の中、湖は再度、麻袋に視線を向けたがやはりそこに白子の姿はない。
「ふっ。ドナドナには所説あるのは頭の悪い君でも分かるよね。例えば有名なのはこれかな。ワルシャワの詩人イツハク・カツェネルソンが作詞者なんだけど。その彼の妻と二人の息子が収容所へ連れられた時の気持ちを書いているとも言われているよね」
出雲大社は当たり前に知っているだろうという目を湖に向けてきたが、そんなもん知るはずもない。脳味噌をいろいろな角度から活用してみたが、初めて聞く内容だった。
「君は知っていたよね?」
矛先を甲乙に変えたが、甲乙も甲乙で首を横に振っていた。
はぁ……と、これ見よがしに巨大なため息をつき、
「この、頭の悪いバカ供が」
暴言を吐いた。
「じゃ、こっちかな。頭の緩い下々の者が知ってるのはこっちの説かもしれないな。子牛はユダヤ人の例えだ、馬車はユダヤ人を積んだ車のこと、市場は収容所のことだ。つまり、子牛のユダヤ人はアウシュビッツに運ばれていき、そこで処刑されるということだ。ドナドナはこれを歌っている。こっちの話は知ってるよね」
湖と甲乙は同時に顎を引いた。出雲大社は満足したように顎を引き、
「君はこのユダヤ人の境遇を自分と重ねたわけだよね。なんて可哀想なユダヤ人。ユダヤ人に生まれたばかりにこんな仕打ち。俺だってこんな体に生まれてこなければ違った人生があったのに。まあ、こんなとこだろう」
甲乙は出雲大社を睨みながら唇を強く噛んだ。
「だが、君とユダヤ人は全く違う、わかる?」甲乙にマイクを向けるふざけた仕草で挑発した。
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