十一

十一


 目を閉じた。腹に、身体中に力を込めた。

 痛みがくるのをこらえて体に力をこめていたが刺さる気配はいつまでたってもない。

 恐る恐る目を開けるとそこには……


「ふーん、あーそう。うちの子の腹蹴っ飛ばしたの君? それと僕のアシスタントを傷つけたのも、君?」

 甲乙の目は飛び出るほどに見開かれていた。一秒前までいなかった人が目の前にいて、ナイフを持っている手はがっちりホールドされている。


 お洒落なデニムに黒いシャツ。そこにはブランド物の「G」の字が角度によって浮き上がって見える。筋肉質な体(実際は弱いけど)にハイブランドのスニーカー。待ち望んでいた出雲大社の姿がそこにあった。


「君ね、」

 素早い身のこなしは無駄がなかった。初めて見たその動き。

 カキンと音を響かせてナイフが下に落ちた。それをきれいな弧を描くような動作で遠くへ蹴る。いつの間にか甲乙の両手は出雲大社によって後ろ手に組まされていた。そのままかくんと膝を折られ、地面に膝をつけている。


「僕のものに手を出すとどうなるか分かる? 君は僕の怒りを買った。ただじゃすまさないからね、ニセもの君」

 にせもの?

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