「本当なら私は睡眠薬入りドリンクを飲ませて気を失わせるまでだったんです。でも、あなたはそれにひっかからなかったから、あの二人はあなたをこのままにしておいたら危ないと思った。だから、私にあなた方をなんとかここへ運んでくるように言いました。眠らせてしまって台車に乗せて運べば、足の悪い私にでもできることです」

「ここはあなたが任されているところじゃないんですか?」

湖はまだ甲乙を疑っていた。


「私がですか? まさか。私は研究なんかそんな大それたことできませんよ。ここはあの二人が園長から任されていて、研究資料なんかを保管しているんです」

「あの二人が共謀してたってことですか」

「そうです。それで、足手纏いで邪魔な私もろとも始末しようとしているんです」

「嘘。ここはあなたが管理しているって聞いたのに」

「考えてもみてください。私がここを持つ意味は全く無いし、研究者が自分の研究データを他人に託すと思いますか?」


言われてみれば確かにそうなのだ。甲乙は研究なんてできない。ここを持たされてもまったく意味がなかったのだ。ここを使いこなせるのは彼ではない。

「二人はまだ事務所の中にいるはずです。人がいた痕跡を消すために片付けてるはずです」

 まずはここから抜け出すのが先だ。湖は周りを確認し、甲乙に、

「今のうちに紐をほどきますから、後ろを向いてください」

「けっこうきつく縛られてますよ」

 ジャッキー仕込みの縄のほどきかたを思い出せば、多少時間はかかれど一人で取ることはできる。

 指先を器用に使ってなんなく紐をほどき、急いで自分の足に結ばれている紐をもほどく。甲乙の腕の紐をほどいた。


 甲乙が足の紐をほどいている間に湖は素早く小屋の入り口に走り、外の様子に目を凝らした。

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