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「それがこれというのもなく、いたっていつもと変わりなし」

「そうでしたか。それを聞いてほっとしました。何もなくて良かったですね向井さん」

 麦茶のお代わりを飲み干して、向井があくびをして背伸びをした。

「お二人は少し休憩したらどうですか? いつもと違って気を張って見回りしたから疲れてるでしょうし」

 と言われるとなんだか悪い気がする。けれど、本当のことなので仕方ない。甲乙を盗み見るとしれっとした顔をして向井の方を向いて目を細めていた。


「じゃ、ちょっとそうすっかな。少し休ませてもらおう。何もなかったことだし。もしかしたら外部の仕業かもしれないし」

「それもそうだな。じゃあ俺もそうすっか」

 櫻井もあくびをしながらソファーに腰を下ろし、首の後ろに手をやり頭を左右に振ってこきこきと鳴らした。


「それなら私、ちょっと白子さん探してきます。甲乙さん、お手洗いどこですか?」

「え? ああ、外出て左に行くとすぐにありますよ」

「ほんとすいません。白子さん好奇心旺盛なのでその辺ふらついてるかもしれないので探してきます」


 ややしばらくしても帰ってこない白子はきっとその辺をふらふらして散歩しているに違いない。眠っている動物を目を猫のようにまん丸くして眺めているかもしれない。

 まったく。臭いがどうのこうのと言ってたのは自分なのに。と思いながら足早に事務所を後にした。じゃないと二人とも仮眠してしまう。そして甲乙が一人になってしまうからだ。

ところが、白子はどこにも見当たらなかった。


 トイレには誰もいない。使った形跡すらない。あの白子が事務所に甲乙一人を残してどこかに長時間行くとは考えにくいことだ。

 そして、外にある夜のトイレはすごく怖かった。辺りはしんと静まりかえっている。すぐ後ろにライオンかなんかがいそうな気配に、身体中をちくちくと針で刺された感覚になる。


「白子さーん、どこ行ったんですかー?」

 ちゅちゅちゅちゅちゅと猫を呼ぶように音を立ててみた。もしかしたら出てくるかと思ったから。しかしながらどこにもそれらしき気配はない。


 入れ違いに戻ってるのかもしれない。そんな気持ちにさせられたのは、夜夜中に一人でこんなところにいるからか、事務所が心配だったからか、そのどちらかかは分からないが、気がつけば事務所へ向けて走っていた。

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