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「よし、これで見回りはおわり。なんも問題なく動物たちは落ち着いてますわ」
「そうですか。不審な人も見かけませんでしたしね」
「俺ら以外の人間がこの時間にここいらにいたら、動物たちはそわそわして騒ぎ始めますから。誰もいないってことで問題ないですわ」
「そうですか。じゃ、戻りましょうか」
事務所のほうに向けて他愛のない話をしながらのんびりと歩いた。
真夜中の動物園もなかなか面白い。
動物園に住み着いている虫の声や音、夜にしか感じられない動物たちの気配なんかも感じることができた。そこに時おり混じる猛獣の唸り声なんかもまた怖さの中にも『襲われないから安心』といった気持ちがもたらす好奇心も垣間見れて、それだけでもここに来て良かったと思えるから自然と顔は笑顔になる。
「しかし、盗む動物に統一性がないってのが不思議なとこなんだよな」
モンキーゾーンの方ををちらっと見てから向井がぽろっとこぼした。
「確かにな。ふつうは偏りが見られるもんなんだけどなあ。例えば同じ猿でも種類を変えて盗むとか、研究するならそれが一番と思うんだけどな。あんなめちゃくちゃな盗みかたはそれこそ楽しんでやってるとしか思えねえ」
櫻井が事務所の扉を開けながら言った。
事務所の中には甲乙しかいなかった。甲乙は先程と同様、デスクワークの最中で。
「あれ? 白子さんは?」
「お手洗いに行かれてますよ」
「ああ、そうですか」
「皆さん、お疲れさまでした。麦茶かコーヒーでもどうですか」
甲乙は湖たちが戻る時間を読んでか、既に冷たい飲み物を準備してくれていた。
喉が乾いていた私たちはありがたくそれを手に取った。
口にしようとしたところで、
『クライアントが出したものには一切手をつけるんじゃないよ』
なぜか出雲大社の言葉を思い出し、グラスに口をつける瞬間に思いとどまった。
「それで、怪しい人とか何かいたんですか?」
甲乙はパソコンのキーボードを叩きながら誰ともなしに聞いた。
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