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「とはいえね朝倉さん、俺らはいつも甲乙を不思議に思ってたんですよ」
とは、向井の言葉だ。
「というのは?」
「あいつ、昼すぎと夕方には決まっていなくなるんです。俺も自分とこの猿の件で頭に血がのぼってましたし、その度にあいつになだめられてたからなんとも思ってなかったんで。それでもまあ、あいつに盗みなんて到底無理ですよ」
「お二人の話を聞く限りはそう思います。それで?」
「それで、帰ってくるとすげえ顔笑ってんすよ」
「あ、それ俺もそう思ってた」櫻井が被せた。
「だろ。礼拝だかなんだかって聞いたぞ。日に三回やってるって。それでも足悪いし小柄だしあいつには無理だろうって頭からあいつを省いてたんだけど、こうなってみて一人一人のことを考えてみたんだよ」
「こいつと俺でな」
と櫻井も自分も一緒に考えたことをアピールした。
「一人でいられる自由な時間ができるのは、あいつくらいなんだよ」
「それでも、自由な時間ができたくらいじゃ盗まれた動物を置いておくところがなければどうにもなりませんよね」
「そこ。思い出したんだけど、あいつ、小屋持ってんだよ。園長に頼まれたとかでそこの掃除や荷物の管理も任されてる。たぶん、俺らに対する配慮だと思う。俺らは園内をせわしなく動き回ってるけど、それできないだろ、だから違う仕事を与えてんだと思う」
「それに、その小屋の中には園にいるすべての動物に関するデータも保管してあるし、甲乙がちゃんと見ててくれるから安心してたってのもあって深く考えなかったというか。なあ向井」
小屋を持っている。一日のうちにいなくなる時間が決まってある。帰ってくると顔が笑っている。
「それにあいつ礼拝仲間のやってる変なサークルだかなんだかに入ってるみたいだし」
「サークル?」
「詳しくは聞いてないけど外国のものみたいなことは濁してた」
「お二人は動物の研究をなさっているんですよね? こういっちゃなんですが、動物を盗む要因はお二人にもあるように思いますけど」
「それを言われたら辛いけどね、そもそも犬は研究の対象外なんですわ。研究対象は猛獣でしてね」
「俺はそんな、たいそうなもんはできない」
櫻井のあとに、ふてくされたかんじで向井が付け加えた。となると、やはりこの二人は外して考えるべきだろう。犬や鳥は関係ないとなる。
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