・・・・・

 白子もまた同じことを考えていた。

「それで、別にあなた、動物園じゃなくてもよかったんじゃない? 動物の世話ってけっこう大変だと思うわよ」

 と白子はホットミルクを舐めるようにちびちび飲みながらデスクワークをしている甲乙に聞いていた。


「僕は動物が好きなのでここに務めているんです。なんていうんでしょうか、運がよかったのかもしれませんね。他の動物園では雇ってもらえないかもしれませんから」

「それはどうして?」

「だってそうでしょう、緊急時には走らなければならないことが多すぎます。さきほどあなたが仰ったように、園内を走り回ることだってわりとたくさんあるんですよ。それに平坦なところばかりじゃないんです」

 そんなことを言った。それでも雇ってもらえたんだからクビにならないように一生懸命働いているだけだ。と、付け加えた。

「動物を盗むなんてそんな残酷なことが起こってしまって本当に残念です」

「まあ、そうね」

「盗んで隠し持っておけば好きな時に自分の研究ができる。それに、ここは死角が多すぎる。一日中誰も足を踏み入れない所だってあるんです。格好の場所だとは思いませんか」

「てことは、やっぱりこの園内にいるっていいたいのね」

「仲間を疑うのは嫌なことです。いないと信じてます。おっと、」

 ファイルの束を両手に抱え、歩きだそうとしたところで躓いた。


「ちょっとやめてよ、大丈夫?」

 白子は反射的に甲乙の腕をつかみ、甲乙は足をかくかくさせながら「すみませんすみません」と頭を下げていた。

「気を付けてよ。重いものならあの熊担当のゴリラみたいな人に頼めばいいじゃない」

「ゴリ……。いえいえそうはいきませんよ。これでも必死なんですよ。ここにいるために必死なんですから」

 落としたファイルを広い集め、机の上に置いた。


「けっこう大変なのね。それはそうと、あなたは一晩中ここにいるわけ?」

「そんなことないですよ。外にで出ることだってあります」

「なんのために?」

「机に向かってパソコン叩いているだけが僕の仕事じゃないんですよ。ミルクもう一杯飲みますか?」

「お願い」

 人のよさそうな笑顔を向けてマグカップにミルクを入れたあと、笑いなからジャンパーを着始めた。

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