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 湖は懐中電灯片手に園内を見回っている時に、それとはなしに櫻井自身のことを聞いてみた。

 彼はあと五年はここで働きながらいろいろな動物のデータを取り、その間に何本か論文を書いて学会で発表したいという希望を楽しそうに話してくれた。


 彼は大学院にも籍を置いていて、研究職にも携わっていた。動物園にいる限り好きなだけデータを取っていいと園長に言われているということで、ここにいればいろいろな動物のデータを取ることができる。自分の専門動物以外の動物のデータを取るのもそれもまた新しい発見があって多角的に面白いと言っていた。

 研究熱心な彼には動物を盗む理由は無いように思えた。


 向井にも聞いてみたが、彼は最初のうちふてぶてしくぶすっとしていたが、徐々に自分のことを話してくれた。

 彼は昔から猿が好きだった。子供の頃動物園に連れて行ってもらって初めて見た瞬間にびびっときたそうだ。子ザルはいつもくっついてくる。そんなところがかわいくて仕方ないらしい。もちろん彼も動物全般が好きでここにいるわけだが、あと何年かしたら他の動物の担当にもしてもらえ、いろいろな動物の世話ができるという約束を園長としていた。


 そんな矢先に自分が管理している猿が盗まれたものだから、もしかしたら自分の管理不足で動物が盗まれている。そんな管理能力の無いやつに他の動物なんて任せられるわけがない、と思われて、今までの約束が破棄されるんじゃないかと気をもんでいたのであのような態度になった。ということがうっすら浮かんできた。


「園長も犯人が分からないうちにそんなことしないだろう。そんな人じゃない」

 と向井の話を聞いた櫻井はぴしゃりと言い切った。

 この二人には動機はないと思った。しかし白子が言っていた『開けてみなきゃ分からないのよ』という言葉を思い出し、頭を数回振って、それでも彼らには何か企みがあるんじゃないのかと疑いの眼差しはキープすることにした。

「話は変わるんですが、その、甲乙さんてどんな人なんですか?」

湖は事務所にいる甲乙の性格や人となりを聞いてみた。

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