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確か出雲大社の瞳は悪魔のような暗黒な黒だったと記憶している。光の加減によるものだろうけど、こんな綺麗な瞳の色は見たことがない。例えるなら宇宙空間に浮かぶ海王星のような(見たことないけど)夕焼けに染まった薄紫色の空のような、とりあえず、人の瞳には無いような色に、ぐっと惹かれた。
「ほらね、やっぱりそうだ」
ふふんと鼻を鳴らし、光を潰すように目を細めて笑った口許からは同じように綺麗な白く輝く歯がちらっと見えて、更にイラッとくる。ガムのコマーシャルにもいけそうだなと思うと胃の辺りがムカッとした。
「黒い影が見えるんでしょ?」
出雲大社が指を指した場所にはまだ猫の影がある。尻尾をぱったんぱったんとやっている。
「じゃあ、行こうか。その黒い影が君の待ち望んでいたものだよ」
「それってまさかその、あの、見つけることができたらここに来られる黒い猫ってもしかしてその、」
「その子」
黒猫を指差した。
「その子って、これ、見た目は猫ですけど、でもなんか」
「ただの猫の霊だね」
スローモーションで両手で頬を包みこんだ湖は、耳を塞ぎたくなるくらいの叫び声をあげた。
「痛い痛い痛い。耳痛いからやめてよ迷惑」
「だってそれって私が霊を見ちゃってるってことじゃないですか! そんなこと聞いてないですよ。むりむりむりむりむり」
その場で地団駄を踏み始める。
「あのね、俺がなんの役にもならないクソみたいなやつを雇うと思うの? メリットないのに雇うほど俺優しくないよ。まあ、君が見えても見えなくても霊の方から寄ってくるから。言わば、君は幽霊ホイホイだね。それが君がここにいる理由だよ。さ、行こうか。時間ないから」
出雲大社はありえない言葉を湖めがけて一方的に投げつけてきたけれど、湖はあまりの恐ろしさに冷静じゃいられなかった。
ぷーっ。と半分魂が口から抜けかけた湖の首をひっつかみ、引きずるようにして階段を上がる出雲大社はなぜかご機嫌だった。下を見れば、ノリコが入り口から顔を覗かせていて「にゃあ」と鳴いた。
「ああ、カギ閉めないと」
「大丈夫」
湖の逃げる隙はどこにもなかったのである。
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