・・

「あの子はね、嘘をついてるよ」

 とは出雲大社のことばだ。

 あのあと出雲大社は食い下がる高宮を半ば強引に追い出してしまったのだ。

「いや、百歩譲ってそうだったとしてもせっかくここまで来たんですよ、いなくなった彼氏を探しに来たんですよ。だったら、」

 そこまで言いかけたとき、視界の隅を黒い影がふわりと抜けて視線をやれば、そこにはなにもいない。気を取り直して、


「本当はいなくなった彼氏の居場所わかるんですよね?」

「そうだね」

「だったら教えてあげるくらいは」

「うん、まず教えとくよ。人が言ったことを百パーセントで受け止めないこと。人の目を見ていればそれがどういう意味で言っているのか容易にわかるはずだよ。簡単なことなんだよ。僕が質問したときに、彼女は斜め上、右上を見ていた。つまりそれは、今までにない状況を作り出しているってことだ。嘘をつくは人は一概には言えないが斜め右上を見る傾向にある。あ、そうそう、あのチキン、手を付けちゃダメって言ったけど大丈夫だよね」

「なぜここでチキンの話に繋がるんですか」

「……はぁ、なんで君が来ちゃったんだろう。際限なくめんどくさいなあ。なんで分からないんだろうね」

 謙虚さの欠片も感じられない。

 そんなとき、また視界の隅を黒い影がふわりと抜けて行った。抜けた影は入り口のところで止まって動かない。あれ?

 ん、猫? 猫だ。完全に猫だ。猫で間違いないと思う。


「あの、さっきからそこに……って、うわ!」

 振り向き様、目の前には出雲大社の顔。

 コンパクトにまとまっていてやはりアイドルグループにいそうでむかつく。無駄に綺麗な顔がすこぶる腹立つ。

 でも、何かが違ってる。

 出雲大社の目の色は左右の瞳の色が違ってるように見える。

 紫とスカイブルー。オッドアイだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る