「なるほど。詳しい説明、ありがとう。それで、君はその彼氏を探したいわけだよね」

「そうです。探して欲しいんです」

 高宮はなにかを考えるように斜め上を見ていた。

 湖が熱めのモカとオレンジジュースをテーブルに置く。

 高宮はなぜか瞬きが多くなり、首を小刻みに振り続けている。様子がおかしかった。

 そんな高宮をじっと無言で凝視する出雲大社の口が分からない程度に動いていて、誰かと話をしているようにも見えた。ここにいない誰かとなにかを話している。時おり首を横に小さく振ったり眉間にシワを寄せたり、怪しさこの上ない。

 目を細くして湖が観察していると、出雲大社がするりと視線を高宮の背中越しに送った。湖は咄嗟にそっちを向いた。しかしそこには何もない。

 出雲大社の方へ視線を戻すと、我関せずとばかりにコーヒーカップを両手で持ち、熱めのモカを伏し目にこくりと飲んでいるところだった。

 その無駄に長めの睫毛がすこぶるムカつく。そして、睫毛のくせにキューティクルがありそうなそのつやっつやで調子のよさそうなところもにも腹が立った。


「で、彼は今どこにいるかってことなんだけどね」

「はい。どんな些細なことでも構いませんからお願いします。教えてください」

 出雲大社は在らぬ方向に視線を向ける。それをじっと見つめている高宮は、一瞬たりとも出雲大社から目を離さない。 

「うん、ああそう。なるほどね。わかった。無理だね。見つけるの無理」

 出雲大社は目を閉じるとコーヒーカップに目を落とす。

「君の彼氏を見つけることはできないよ」

 一口飲んで、優雅にコーヒーカップを置いた。

「なんでですか。だってそんなはずない。見つけられるはずです。あなたは絶対見えてるはずじゃないですか」

「そうだね」

「解決できないことなんてないんじゃないですか? そう聞いてました」

 テーブルを叩いて立ち上がる高宮には鬼気迫るものがあった。

「僕は全能の神じゃないんだよ。まあ、それに近いってことは認めるけど。でもできないことだってあるさ。てわけなんで、もういいよね、じゃ、帰ってくれる?」

 まだなんの解決にも至っていないこの問題を、あっけらかんと弾き飛ばした。

「まだ何も終わってないのに」

 出雲大社に食って掛かるその姿はなんとなく普通じゃないというか、言い表せないほど変な感じだった。そして、湖と高宮にはまったくもって意味が分からなかったのである。

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