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「これ、お土産です。今学校で流行っていて、けっこう美味しかったので」
「あっそうなんだありがと。中身はなんだろう」
「フライドチキンなんですけど」
「うわー。フライドチキン。僕チキン大好きなんだよ、すごい嬉しい。ありがとね」
「喜んでもらえてよかった。あったかいうちに」
「そうなんだけど、まずは君の相談。あとでゆっくり頂くとするよ。朝倉くん」
湖はキッチンの壁に爪を立て、上下にギリギリギリギリやっている。
あいつはきっと口から生まれたに違いない。あんなことをようペロっと言えるものだ。ついさっき、チキンは嫌い宣言したばかりじゃないか。相手により変わりすぎるんじゃないかと腹立たしかった。
「これ、高宮さんから頂いたお土産のフライドチキン。あとで頂くから持っていって」
「……フライドチキンですかあ、いいですね、ここの今流行ってますもんね。流石高校生、流行に敏感ですね」
あれ、ちょっと待って、この高校生のこと『高宮さん』て呼ばなかった? もしかして既に『霊視』が始まっているんだろうか。だとしたら私の出る幕じゃない。ここはこの辺にして引っ込まないと。と湖は即座に事が進んでいることを感じ取り、言いたいことはあれど、キッチンに引っ込んだ。
「僕はモカで。かなり熱めのでよろしく」
「……はい」
「朝倉君」
「はい?」
「熱めのでよろしくね。それからそのチキン、手をつけちゃダメだよ絶対に」
「分かってますよ。それと、熱めので作ります」
念を押した出雲大社の顔は真面目だった。
出雲大社はすぐに楽しがるような顔つきに変わったが、仕事の邪魔をするわけにはいかないので詮索せずに急いで持ち場に撤収した。
その背後で、『なんで私の名前……まだなにも言ってないのに』という声が聞こえてきたが、『それが僕の仕事ですから』と返していた。
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