ほどなくして到着した場所に、花井の態度があからさまに変わった。

 体は震え、一歩たりとも動かなくなってしまった。

「さ、行こうか。ささっと問題を片付けよう」

 そんな花井を知ってか知らずか出雲大社は右腕を曲げ、腕組みを要求する。

 花井はどうしたらいいものかと横にいる湖に視線をよこす。

 大丈夫ですよ。とひとつ頷く。この場合、そうするしか他に方法は無い。


「いいですか、君はただ僕の言うことにうんうんと首をアカベコのように縦に振って肯定しているだけでいい。むやみに口を挟まないでね。すぐ終わらせるから」

 とまた暴言を吐き捨てた出雲大社を、なにが『僕』だこの野郎と心で罵倒してやった。

 ムカつくほど細くて白くて長くて綺麗な指でピンポンを押す。その腕に申し訳なく手を通している花井はすこぶるぎこちない。


「はい? だれ?」

 無愛想な声の主は男で、その声色に花井の肩が跳ねた。

「ちょっと中に入れてもらえませんか。とても大切な話があるんですが」

「あんた誰だよ」

「花井美花さんの件でお話があるんですけど」

 ガチャガチャと騒がしい音と共にインターフォンは切れ、間髪入れずに玄関のドアが開いた。


「おまえ誰だよ」

 花井が震えているのが隣にいる湖に伝わり、庇おうと一歩前に出る。

「玄関でもなんですから中に入れてお茶のひとつも出してくださいよ。それでは」

 戸惑う男をよそに勝手に玄関に入り込み靴を脱ぎ始めた出雲大社に遅れまいと湖も家主の許可を待たずに急いで着いていく。 

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