「ちょっと失礼するよ」

 言うのを躊躇う花井を無視し、出雲大社は物音立てず優雅に立ち上がり花井の後ろに立つ。おもむろにカーディガンを脱がせ、あろうことかワンピースのジッパーを下ろし始めた。

「君、元彼氏のこと、怖いだけでしょ」

「それは」

 さすがにそれはありえないとばかりに湖が走る。


「出雲さん、なにやってんですか」

小さくなる花井を庇うように湖は脱がされたカーディガンで花井の背中を覆う。しかし。

背中は真っ赤に晴れ上がり、みみずばれが走っていた。まだ生々しい傷もあるし、かさぶたになって治りかけのものもある。引っかかれたような傷もあるし、鞭で打たれたような跡もあった。

「ちょっとなにこれ。これってその、虐待……」

「君、ほんとデリカシーのかけらもないよね。それでよく女子やってられるね」

 持ち場に戻れとばかりに台所を指す。

 出雲大社が花井にしたことにびっくりして飛び出したが、別にあそこまでしなくても、彼女に聞けばいいだけの話じゃないか。そう思うとやはり出雲大社の行動は間違っていると思わざるをえなかった。

湖は花井のワンピースのジッパーをあげてやる。


「きっかけは今の職場なんです」

 花井がカーディガンを胸に抱きしめながら話しだした。

今の彼とはそこの同期で一緒になりました。新人研修の時に仲が良くなって、たまたま隣同士だったってこともあるんですけど。二人で一緒にいろんなことを覚えながら仕事をしてきたというか、デスクも隣同士で、これは運命? なんて思っちゃって、それから一気に加速して付き合うことになったんです。


 はじめのうちはよかった。優しかったし楽しかった。でも、それがだんだん変わってきて、一時間ごとにメールをしろとか、メールしたら五分以内に返せとか、土日は俺と一緒にいろとか、女子会は三時間までとか、最初は愛されてるんだと思って嬉しかったんです。でも、私の入浴中に勝手に電話を見られて、男友達からのメールに、これは誰だ、浮気か。ってなって、その人はただのお幼馴染で兄妹みたいな人なんです。そう言っても聞いてくれなくて、それからしばらくそんなことが続いて、そうしたら軽く叩かれるようになって、でもまだ愛されてるんだって思ったから我慢していたんです。今では門限もできて、一分でも過ぎると暴力をふるうようになって、それでも私がいけなかったんだって思ったから、我慢してたんですけど、でももう……

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