たのしい がっこう

――この星ができたころからの話――

 「神様」と呼ばれる存在は、宇宙が生まれるきっかけを創り、そこから始まる全ての事象を神の意志に記録した。

 新しい宇宙、銀河、惑星、恒星などが誕生すると、その詳細をを記録するために「神使」を置いた。地球だって例外ではない。

 それは生物の存在どころか星としての姿形すら安定していない頃。当然、精神だけの存在だ。

 

 

 ある時、それまで「物質」しかなかった世界に、他の物質を取り込んで成長し自己増殖や分裂を行う「生命」が現れた。

 これを興味深く思った「神使」は、自身を細分化したもの――現在は魂と言われているもの――を生命の中に送り込んだ。

 そこに生命が生きた間のすべての記憶が書き込まれる。


 生命活動を始めるということは、体外から何かしらを取り込む。その最初の瞬間に魂も取り込まれ、生命活動を失うと魂を繋ぎ留める力も消え放出される。

 「神使」は放出された魂を回収し、根幹である神の意志へ記録を移した後、再び地上へ魂を戻す。それは延々と続き、今でも行われている。


 魂には記録の他にもう一つ使命が課された。それは「生きる」という事。簡単に死なれてしまっては記録が集まらない。

 その結果生命は個々の活動時間は短くとも、次の世代に種を残す手立てを獲得しながら数を増やしていった。生死のサイクルも星の一生に比べればあっという間で、おかげで一度に得られる情報は僅かだが継続的に記録が集められた。



 生命が目まぐるしく進化するにつれて魂も変化が出てきた。生き残ろうとするために意志を持ち、感情を持ち、学習した。自我や仲間意識も芽生え、ますます生命は複雑多様化した。


 その中のある生命体が神の存在に気づき始めた。その生命は人間。教えもしないのに勘づくとはなんと興味深い事か。そこで「神使」は人間を模して「使い」達を創った。

 人間への干渉は原則禁止、「天界」と呼ばれる世界に住み分けさせ、そこから人間を中心として地上の様子を記録する命を与えた。


 「神使」は「使い」からの記憶を辿ることができた。ただしその逆行はできない。

 今まで回収した魂からしか記録を取り出せなかった分、現在進行形で「使い」の記憶を辿れることで、事細かな状況を知り得ることができた。

 

 「使い」はこの珍しい生命の存在をなるべく長い時間観察しようと考えた。

 そのためには、多少は人間に干渉する例外が認められた。直に対面せずとも済むよう、夢の中や意識に直接語りかける能力を持ち、神を敬うものには恩恵を与え、著しく道を外す者には罰を与える。

 だがそれ以外は手を出さず、放出された魂の回収と、地球上で起こる森羅万象を記録することが使命であった。


 時が経つにつれ、禁を破り人間への干渉を行う「使い」が続々現れた。

 独自の考えを持った「使い」の一部は結託し「人間のための神」となることを宣言して別世界を作ってしまった。

 これが後に現在の地獄とか魔界などと呼ばれる対極世界なのだが、最初のころは純粋に、人間を救い、願いを叶え、教え導き、繁栄させるために存在しようと模索していた。


 しかしこれも時代が進むと、次第に本来の意味から逸れる者が現れた。

 自ら神になろうとした彼らは、他の同胞より少しでも多く魂の記憶を手にいれるため、人間を貶め始めた。

 欲望を満たすと代償として魂を頂き、己の記憶に書き加える。他者より多く蓄積することで少しでも神に近づく為に。

 こうなるともう人間の願いを叶えるために存在しているのか、自分の欲を満たすために人間を利用しているのかわからない。秩序は大きく乱れた。

 さらに「神使」との記憶の共有を断つために、あえて人間や他の生物と交じり、自分らの血を薄めた。長く行われた結果、「神使」が記憶を辿るのは完全に不可能になった。

 それにより個々の能力に大きな差が生まれ、そのまま身分の差となる。高い能力のものは高い地位につき、権力や勢力のために他と争う。能力の低いものはその下で物品のように売り買いされ、人権など与えられず低俗な暮らしをしていた。

 

 魂の他にもう一つ欲しがったものが「生命力」だ。

 生きているものであれば共通で持つ力で、肉体が魂をつなぎ留めるための力の事。年齢や動物・植物で違いはあれど、根幹は同じ。蟻から奪った生命力を象に注ぐことだって理論上は可能だ。そして人間を模して創られた「使い」たちもまた例外ではない。

 獲得した地位や権威を持ち続ける為に必要不可欠な力。もし肉体が滅んでしまったらその魂の記録を他人に横取りされ、権力も失うことになってしまう。

 とりわけ魂や生命力を抜き取る能力に長けた種族がいた。権力者は彼らを取り立て、高待遇で手元に置きたがった。人間はいつしか彼らを「死神」と呼ぶようになり、死への恐怖や異教・邪神の信仰対象となった。




 天界の「使い」達は、このままでは人間だけでなく全ての生命が危ないと判断した。監視役だけでは済まない事態になった。

 自らを「天使」と称し、創造主への裏切行為を働く彼らを「悪魔」「魔物」と呼び戦うこととなる。


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