第15話 4月20日 学校はどんなところ

 園長が教育委員との話し合いから帰ってきて、来週の月曜日から2人は登校できることになったと報告した。

 前もっての準備と園長の直接の掛け合いもあり、市と教育委員会が特例として学校と早急の調整を取ったそうだ。教師も充てられる人員があり、教室も空きがある。制服はPTAの中古販売から譲り受けた。


「もしきつかったら交換できるから、今のうちに試着してみなさい」

 二人は互いに互いを見ながら服を着た。詰襟のボタンを留めると、直哉が苦しがった。体つきがいいせいで一番上を留めると首が締まるという。これより大きいのを頼もうとすぐ連絡してくれた。

「すごいね……制服って。いきなり地位の高い人になったみたい」

 真一が自分の姿と直哉の姿と交互に見て感激している。

 直哉も見たことのない服に、自分の姿が新鮮で仕方なかった。


 ところが学校から帰った純が直哉を見るなり

「うわー!! すごい、直哉にーちゃん”不良”みたい!」

と、少々落ち込む言葉を発した。

「こーら! そんなこと言わないの!……髪はもともとだしちゃんと学校には話してあるから、直哉は気にしないでいいからね」

 直子が純たちに注意をしたが、聞いているのかいないのか。


 中学生組が帰ってきても同じことを言われ、さらに落ち込んだ。直子が中学生組にも注意する。

「あんた達もそうやって見えるってことは、周りからはもっとそう見えるってことなんだよ、あんた達が周りとうまくやれるよう間に入ってやらなきゃだめだからね。そうじゃないと直哉孤立しちゃうよ。ちゃんと面倒見なさいよ」


 中学生組は小学生組とは違い、それは重々承知しているようだった。しかしあまりにも見事に漫画に出てきそうな赤髪と学ランの組み合わせに、そう見るなという方が無理じゃないかと内心思った。



「ますます心配になってきた。大丈夫かなあ」

 優二が美穂と話す。絶対目をつけてくる、と。

「しつこいようだけどホント1人になるなよ。1人でいて襲われても俺ら責任取れないからな。なんかあったらすぐ先生の所に行けよ」

「うん」

 二人は制服を脱ぎ、上着をハンガーに掛けたりズボンやワイシャツの畳み方を教わったりして、大事そうに部屋へ持ち帰った。




 翌日、PTA役員の女性が体操着や上履きと一緒に直哉にあいそうな一つ大きいサイズの中古上着を持ってきてくれた。

 直哉も一緒に玄関へ出ると、案の定女性はその容姿に驚いた。園長にならいお礼を言う。外国の方ですか? と聞かれ、直哉はとっさにはいと答えてしまった。それで納得したのかとくに深入りされず、女性はきつい方の上着を持ち帰ってくれた。

 試着するとこちらはまだましだった。動き辛いのは致し方ないとしても、腕も上がるし首を絞められる感覚もないので、あとは慣れだろうと園長が楽観的に言ってくれた。

 

 


「2人とも今まで文字とか書けなくてどうやって生活してたの? 読むこともできないんでしょ」

 登校前夜の中学生座談会。そういえばあの資料室片付けはじめてたぞ、という話から、美穂が尋ねた。

「なんていうか……文字教わってないからね。時計の数字が読めるくらいかな」

と真一が答えた。直哉もそれに合わせ自分もその程度だと合わせた。

 それだけ聞くと次の話題に移ってしまった。

「部活何かしら入った方がいいよ、陸上なんかどう? 先輩で空手二段の強い人がいるんだ。もし絡まれたら先輩に助けてって言えば、あいつらも先輩には勝てないと思ってるみたいだから襲われないかも」

「そうだな、桑原なら守ってくれそう。俺からもお願いしようかな」

 孝太郎も優二に同調した。

 陸上部って何と問うと、ざっくりいえば走るのがメインだと教えられた。


 就寝時間になったので、真一と直哉は隣の自分たちの部屋へ戻る。

 緊張するね、と真一が話しかけると「みんながいるから大丈夫だ」と珍しく「ウン」以外の返事が返り、嬉しくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る