第2話 4月4日 異質な負傷者

 深い眠りから覚めた感覚で意識が戻る。左目は何かでふさがれており、右目は重たくかろうじて半分だけ開くことができた。

 限られた狭い視界で見ることができたのは白っぽい天井。続いて銀のレールから垂れるクリーム色のカーテン。

 自分の頭上からピッピッという定期的な高い音がひびく。左腕には管がつながっており、目でたどると脇に立つ銀色のポールに吊られた液体袋に行きつく。袋と管の接続部ではポタポタと雫が落ちている。これ以上は痛くて首が曲がらず様相が分からない。

 少年は小さくため息をつき再び目を閉じた。吸い込まれるように再び眠りに落ちる。





 話声が聞こえ、誰かが自分の体をさわっているのに気づき目が覚めた。

「あっ、気が付きました」

 看護師の女性が驚いた声を出した。突然の人の存在に少年も驚いたようだ。

「おはよう、よく寝てたね。もう大丈夫」

「……」

 何かをカルテに書き込み、医者の若い男性が一歩近づいてきた。

「ずっと寝てたんだよ、ひどい怪我で。まだすぐには動けないけどもうちょっと頑張ろうね」

 少年は何も言わず、されるがままにしていた。


 ひとしきり診断が終わると医師が尋ねる。

「君お名前は?」

 こんな質問をしたのも、彼がなにも所持しておらず身元が全く分からなかったからだ。捕まった少年達も何も取った形跡がなく、知る術がなかった。本人が目覚めてくれたのなら直接くのが早い。

 

 しかしいくら待っても返答がこない。目線をそらし何か言いかけるのに一向に言葉がでてこない。

 もしかして日本語がわからないのか?

 燃える炎のようにゴールドがかった赤毛が、視界を覆うように長く伸びている。それに負けず主張の強い赤い瞳、髪色との対比が際立つほどの色白の肌、体格もいいし日本人離れしている。外国人だろうか。


「どこか今痛いところある?」

 看護師が質問を変えた。彼は首を小さく横に振った。どうやら日本語は通じているようだ。とりあえず今はそれでいい。

「また夜来るからね。ゆっくり休んでな」

 二人は部屋を出て行った。カーテンを閉めた後ろで、聞き取れないほどの小声でもそもそとしゃべっている。

 夜にまた来るということは、今は昼なのか? 時間の感覚が全くわからないまま瞼を閉じると再びすっと眠りに落ちた。




「どうしましょう、名前が言えないって何かあるんでしょうか。言語障害とか。でも脳のほうは特別異常なしでしたよね」

「精神科医にも声掛けてあるからそれはまかせとけばいいよ。単に一時的なショックかもしれないしさ。なんにしろちょっと時間かかるかもね」

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