第3話 ダンジョンは楽しいなー(棒)
効率よくダンジョンに入れた(吸い込まれた)俺は現在……落下中だ。
「なるほどなるほど、入った時点ですでにダンジョンの試練は始まってると言うわけか。この落下で死ぬようではこの先に進む価値はないと……ふふっ、興味深い」
なるほど、この女正気ではない。いや元よりそれはなんとなくわかっていたが……。
「んな事言ってる場合か。このままじゃ2人まとめて死亡ルートだぞおい!」
俺がそう声を荒げて言うと、女は冷静沈着にことを進めるかのように何やら作業に入った。
「分かってるとも。対処法など幾らでもある。何も焦る必要はない。固有魔法……」
固有魔法……今、確かにあいつはそう言った。落下のせいで風がきつく固有魔法の先までは聞こえなかったが確かに固有魔法と言った。固有魔法……これは生まれた時にすでに持っている世界に一つの自分だけの魔法。つまり、あたりもハズレも自分次第……的なやつだった気がする。女神曰くだが……。
ズドーン!!!
あれ? これ考え事してたら既に地面に激突してたパターン? もしかしてあれ? 俺死んだ?
「死んでないよ。私の魔法で君の体を守った。まぁ、せっかく連れてきたんだ。スタートで死なれてはおとりにも使えないからね。これはサービスだ」
俺の心を見透かしてか、可愛げもなく俺に嫌味を言ってくる。本当、やな奴。
「お前……友達いないだろ」
「正解だ。ま、どうせ君にもいないだろ。お互い様じゃないか」
このやろう……なんで俺に友達がいないことを知ってるんだよ。ますます感に触る女だ。……あれ? そういやこいつの名前なんだっけ? まだ聞いてなかったな。一々、呼ぶのにも名前が分からなきゃ面倒だ。一応聞いておくか。
「なぁ、そういやあんた名前は? まだ聞いてなかったよな?」
俺の質問に女は目を硬らせ、なんだか少し困ったような表情を浮かべた。なんだ? 名前を聞かれるのは地雷か?
「いや別に名乗りたくないなら無理にとは言わねーさ。本名じゃなくていい。ここにいる間だけの名称とかでも。まぁ、俺の事は適当にシノブって呼んでくれ」
俺がこう言うと女は、表情を戻し冷静に名称を名乗った。
「ライフ。そう呼んでくれ。よろしくシノブ」
ライフ……命? まぁ、適当につけた感じだろ。深い意味はなさそうだ。
「よろしく、ライフ。ところでライフさんよー。この洞窟みたいなところがダンジョンなのか?」
「あー、恐らくね。全てのダンジョンに共通する特徴としては、入った入り口付近は大抵、縦9メートル横18メートルの洞穴状で、少し坂道のように斜面上になっている。周りは、光沢のある魔石でできてるため明るい。ここは大体条件にあった場所だしおそらくダンジョンで違いない。まぁ、上の階に進むたび、ダンジョンによって形が違うらしいが」
こいつの理論上、ここは一応ダンジョンになるらしい。まだ、単純な洞穴の可能性を少し疑ってはいるが……。
「では先に進もうか……っと、その前に君に一つ大事な忠告をしよう。忠告とはいっても簡単な事だ。まず、なるべく自分の命は自分で守るようにしてくれ。私も、出来る限りのサポートはするが無理だと思えば君をすぐに見限る。頼れるのは自分の実力だけなのだと頭に入れておいて欲しい」
「……そんな事お前に言われるまでもねぇよ。それに俺は、はなからお前の助けなんざ、あてにしてねぇっての。さっきは、緊急時で助かったがもうヘマはしねぇよ」
ふん、だれが腐ってもこんな奴に助けられてたまるかってんだよ。こちとら、UMAや熊退治だってこの腕っぷしで成し遂げてきたんだ。小娘の助けなんざいるかバーカ。
「そうか、それはすまない。余計な事を言った。では、これより先に進もう。まぁ、ほどほどに生き残ってくれ」
ーー20分後
迷った……そしてはぐれた。くっ! 失態だ! この20分間完全に俺は足手まといだった! 助けはいらないと言った10分後に足を滑らせ谷から落下。そこは、ライフにギリギリ助けてもらったが、その後変なトラップにひっかかり、大きな手が出現し上へ上へと投げ飛ばされた……。
そして現在……迷子中だ。ハハハ、あー情けねぇ。……ちっ! 何を弱気になってるんだ俺は。この程度何度だって乗り越えてきたじゃねぇか俺は。大丈夫今度もうまく行くさいつもみたいに。
ーーそれからしばらくして。
ーーダンジョン生活1日目
俺は、今日から日記を書くことにした。ここには、確かに俺がいたんだと言う証明のために。ちょうど、手持ちに手帳があったのはラッキーだった。しかし、この日記もすぐに止まってしまうかもしれない。なぜなら、このダンジョンには栄養になるものがないのだ。水に関しては、上から垂れる水滴で補えるが、食べ物は地面の虫を食うしかない。幸いなことに、サバイバルには慣れてるが、やはり虫は極力食いたくない。当てはないがそれでも俺は歩き続ける。
ーーダンジョン生活1ヶ月目
めげず、くじけず、あきらめずと自分に言い聞かせて歩き続けるが最近、同じ場所を歩いて行ってる感覚に悩ませされる。
例えば、一度通ったような分岐点が何度も出たり、何度も同じトラップにかかったりと……正直、進んでる気がしない。きっとそのうちライフにも会えるだろう。今日も俺はあてもなく歩く。
ーーダンジョン生活半年目
流石にもうウンザリだ。何度も同じ道を歩き何度も何度も同じトラップが起動する。もう心がやつれてきてた。ライフ……いや、ライフ様。お願いします。哀れな子羊めをそろそろ迎えに来てはくれませんでしょうか……。今日も俺は……。
ーーダンジョン生活1年目
ライフ……ライフライフライフライフライフライフライフライフライフライフライフライフライフライフライフライフライフライフ!!!
もういいだろう! いい加減にしてくれ! 同じ道を永遠と歩かされるのはもううんざりだ! せめてモンスターにでも遭遇させてくれ! 俺に新しい何かを感じさせてくれ! こんな所に長くいるせいか、体も変に軽いしよ。
(頼れるのは自分の実力だけなのだと頭に入れておいて欲しい)
やつれながらも、ふとあいつの言葉が脳裏によぎる。
「はっ! そうだよ……そうなんだよ、頼るのはお前じゃねぇ。俺自身だった。危ねぇ危ねぇ。だがもう迷わねぇ。いいぜ? とっとと、ここから抜け出してやるよ」
ダンジョン生活一年半目
最近、ようやくダンジョンの無限ループを抜け出せる気がしてきた。独学で確実性はないが、おそらく俺は魔力なるものを感知し始めた。
多分要因は、この魔素の濃度が高いダンジョンに長く滞在したからだろう。まだ、こっちに来たばかりの時は、体がこちらに染まりきっておらず魔力とやらを感じ取れなかったが、ここに来てようやく魔力の流れを感知できるようになった。
そして、この無限ループの謎も魔力を感じることができ、ようやく分かって来たってとこだ。
「なるほど、わかったぞ。これの正体」
ズドーンと大きな音を地面に鳴らせた。要因は、俺が魔力を浴びた拳で地面を殴り少し大きな振動を作ったからだ。
振動を作った理由は一つ、無限ループの正体をひきづり出すためだ。
「出てこいよ、いるのは知ってるぜ黒幕さんよ」
俺がそう言うと、突如先ほどまでいた洞窟状の場所がホログラムのように崩れていき、何もない白い神秘的な空間へと変わっていた。
『ふ、ようやく我が正体に気付いたか。しかし残念、面白いおもちゃを見つけたと思うたのに……もう壊す羽目になるとは』
「どこの誰かは知らねぇがとっとと、姿を表せこの小物が」
そう俺が挑発すると、何もない白い空間に立つ俺の背後からドーンと大きな音が鳴る。
「この、我を小物とはな……よく吠える人間もいたものだ。見たところ魔力も最近まで持ち合わせていなかった小物が」
後ろに振り向くとそこには、大きさにして約4000メートルほどの巨大な黒い竜がズシンと重々しくそびえ立っていた。尻尾にまで顔があり二つの顔を持ち合わせた竜だ。
「あれ? え、えっと、小物ではなかった……かな?」
やはりこの(異)世界は最高(仮)です! ラガーさん @ragasan0728
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